「っ、たちかわさ、……ぁ」
乱れた呼吸の中でそう呼びかけると、太刀川の格子の瞳がゆらりと動いて迅を見上げる。目が合った、それだけのことを嬉しく思う自分に呆れた。手を伸ばして、太刀川の髪の毛をくしゃりと撫でる。本当はもっと優しく触れたかったのに、追い詰まって余裕がないせいで乱雑な手つきになってしまった。しかし太刀川はそれを気にした風もなく、楽しげに僅かに目を細める。太刀川の舌が迅の先端を押し込むみたいに触れて、ひくりと迅の腰が揺れた。先走りがまた滲んで、太刀川の舌を汚していく。
「――太刀川さん、おれ、も、やばいから」
出してもいいぞ、と、その目線が言っている。甘美な誘いだ。このまま太刀川の口の中に精を放つのもとても魅力的で、一瞬心がぐらりと揺れそうになってしまう。
でも、やっぱり、それ以上に。
迅はゆっくりと、太刀川の目を見つめながら口を開く。
「……ねえ、出すのは、太刀川さんの中がいい」
そう言う声は、どこか甘えたような響きになってしまった。口に出してからそれを少しばかり恥ずかしく思ったけれど、その言葉を聞いた太刀川が瞬きをした後、ふっと目だけで笑ってみせたその表情が嬉しくてどうだってよくなる。
迅の下肢から唇を離した太刀川が、その口の周りについた唾液やら何やらを乱暴に手の甲で拭う。その仕草に、自分でも不思議に思うくらいに煽られてしまった。体を起こして、その手首を掴んでから太刀川が何か言う間もなく衝動に任せて唇を奪う。キスは自分の先走りのせいか僅かに苦いような味がしたけれど、それよりも柔らかくて熱っぽい太刀川の唇の感触の方が迅にとっては重要だった。
重ねた唇をより深くしながら、くるりと形勢を逆転させるような形で太刀川をベッドに押し倒す。太刀川がぼすんと柔らかい音を立てて白いシーツに沈んだ。ゆっくりと唇を離して太刀川を見下ろすと、太刀川はこちらを試すみたいな瞳で、楽しげにゆるりと口角を上げながら迅を見つめ返してくる。ああ、好きだな、だなんて心底から思う。
本気を出せばいつだって拒めるくせに、素直に押し倒されてくれるこの人に、いつだって言葉にしきれないような感情が渦を巻く。愛しくて、嬉しくて、気恥ずかしいくせに、どこか暴力的な熱。その衝動には目を向けないようにして、迅は太刀川の首筋にキスを落とす。
本当であればゆっくりと味わうみたいに太刀川の体を暴いていきたいところなのだけれど、既にギリギリまで高められてしまったから残念ながらそんな余裕は今の自分にはない。手のひらで太刀川の肌に触れ、程よく筋肉のついた腹を通り越してさらにその下へと触れる。
そこはまだ触ってもいないはずなのに、既にゆるくではあるけれど勃ち上がっていた。それに気付かされて思わずぐっと唾を飲み込んでしまった後、そこに指先だけで触れる。迅の指が触れた瞬間、太刀川が小さくぴくりと身じろぎをした。そのまま指をつつ、と形を確かめるみたいに滑らせた後、迅は太刀川を見つめる。自分の口角が無意識に上がっていたことに、喋ろうとした時にようやく気が付いた。
「……触ってないのに勃ってるね」
指先だけでなく、手のひら全体で太刀川の熱を包むように触れる。先端を親指で軽く擦るように弄ってやると、太刀川の体が僅かに震えるのをつぶさに見て取ることができた。
「これ、太刀川さんも朝勃ち?」
しかし先程見た時は、太刀川のそれは大して勃起などしていなかったはずだった。迅は再び口を開く。
「それとも、おれの舐めて気持ちよくなっちゃった? 期待してくれたの?」
言葉にしながら、じっと逸らさずに、試すみたいに太刀川の瞳を見つめた。迅の言葉を受け取った太刀川は、迅を見つめ返したままその目をすうと細める。