ステイゴールド sample






◇ ◇ ◇

 キスをしながら、迅が腰を撫でてくる。その手つきがいやらしくてひくりと太刀川の腰が揺れてしまったのに、合わさったままの迅の唇が小さく笑った気配がした。
 唇を離した後、迅の手が太刀川の胸元に伸びる。親指でつつ、となぞるように触れられた後、迅が口を開けて伸ばした舌で先端をゆっくりと撫でた。口に含まれて舌でくにくにと転がされると、その場所は素直にすぐ尖り始める。日焼けをしたせいか、舐められると普段よりも少しだけちりちりとした感覚がした。
「……っ、ん、迅……」
 むずむずとするような感触が、徐々に気持ちいい、を連れてくる。最初はあまり感じなかった場所だったのに、迅が毎回ベッドの上で執拗に触ってきたせいで敏感になり始めているのを感じていた。
 全体をねっとりと優しく舐められたかと思えば、つんと尖った先端を軽く押しつぶすように触れてきたり、あるいは飴でも舐めているかのように転がしてきたり、迅の舌に濡らされ愛撫されて、着実に体の熱を上げられていく。何度も弄ってくる姿に、子どもみたいでかわいーな、なんて迅に言えば怒られそうなことを最初の頃は内心思いながら好きにさせていたのだが、最近ではそうやってただからかう気持ちだけではいられない程度には快楽が強くなっていることを感じていた。
 迅が、ふ、と何気なく吐いた息の熱さにすらわずかに体を震わせてしまった。迅が今度は反対側の尖りを口に含んできて、唾液ですっかり濡らされたもう片方は指でくにくにと弄ってくる。迅が愛撫を重ねる度に、自分の呼吸も段々と熱っぽくなっていくのが分かる。
 気持ちいい、けど、これだけじゃ足りない。じわじわと体が疼き始めていた。条件反射のように、体がこの先を期待し始める。
 かり、と迅が迅が痛くない程度に先端を甘噛みしてきて、その刺激に緩く立てていた膝が分かりやすく震えてしまった。
「ッあ、んん……っ」
 思わず零れた声は自分でも少し驚くくらい甘ったれた響きになってしまう。けれどそれを恥じる間もなく、ようやく唇を離してこちらを見下ろした迅の目に分かりやすく色が乗ったことのほうに興奮した。
 迅の手が下肢に伸びて、ズボンの上からそこに触れる。布越しの迅の手の感触とこの先の行為への期待で小さく息が零れた。
「もう固い。……胸、だいぶ感じるようになったね?」
 触れた手が、形を確かめようとでもするようにゆっくりとその場所を撫でる。迅の声がやたら嬉しそうで、普段は本音をのらりくらりと躱そうとするくせにベッドの上では素直なんだよなと思った。取り繕うつもりがないのか、それともそんな余裕がないのか。どっちにしたって、そんな迅をかわいいやつだと思っている。
「おまえがそうしたんだろ」
 だからあえて煽るような言葉を選べば、ぐっと興奮したように迅の瞳の青が濃くなる。唇をぺろりと舐めたひどく雄くさい表情に、それだけで自分の腰が重くなるのが分かった。ベッドの上での反応の素直さ――という点で言えば、自分だって迅のことを言えないかもしれない。
 迅が下着ごとズボンを下ろしてきて、一糸纏わぬ姿にさせられる。そんな太刀川の全身を撫で下ろすように見た迅が思わずといったように笑ったので、太刀川は目を瞬かせる。何だと思っていれば、迅が太刀川の表情を見て「ごめんごめん」と返した。
「日焼けってこんな分かりやすいんだなーと思って」
「日焼け? あー……思ったより焼けてるな」
 言われて自分でも見下ろしてみれば、下半身にはばっちりと水着の形で日焼けの跡が残っていた。水着を着ていた部分だけ分かりやすく白くて、今日一日でこんなに焼けたのかと思うと驚きだ。確かに日差しを遮るもののない海で半日ほど遊んでいればこうなるかと思って、女子がやたらと日焼けを気にして日焼け止めを塗っていることに納得がいく。
 焼けていない白い部分――陰部の近く、太腿の付け根のあたりを迅がゆっくりと撫でる。その手つきがやたらといやらしい。視線を少し上げれば迅と目が合って、迅がその目を細めて笑った。
「こーいう、他の人に見せないところにおれは触れて良いって許可貰ってるんだなって思ったら、興奮した」
 言いながら、迅は太腿を撫でるのをやめない。大事なところに触れそうで触れない、その手つきが焦れったくて迅らしかった。
「今更」
「うん、今更」
 オウム返しのように言う迅が妙におかしくて、思わずふは、と笑ってしまった。
「つーか俺がこんだけ日焼けしてるってことはおまえもだろ? 見せろよ」
「えー、おれのは後で」
 くっきり水着の形の日焼け跡をつけた迅というのはさぞ間抜けで面白いだろう、と思って太刀川が体を起こしかける。迅のズボンもさっさと下ろしてやろうと思ったのだが、太刀川の手が迅のズボンにかかる前に迅が体を屈めて太刀川の性器を口に含んだ。急に温かくて柔らかいものに包まれて、そしてすぐに太刀川の気持ちいいところを的確に舐めてくるものだから、起こしかけた上半身がまたベッドに沈む。
「……っん」
 鼻にかかった声が零れる。弱いところなんて迅にはとうに全部知られていた。迅のズボンを剥けなかったのは残念だが仕方ない。まあどうせそのうち見られるものだと思って、一旦は退いてやることにした。
 施される口淫に、半勃ちくらいだった性器はすぐに固く勃ち上がる。上を向いた性器が迅の上顎を擦って、その感覚にぞわりと内腿が震えた。舌でなぞられて、吸われて、与えられる快楽に自然と腰が軽く浮いてしまう。
「ぁ、あ……っあ」
 快楽を与えられるたび、声が自然と零れてしまうのは迅がいつも聞きたがるからだ。だからあえて声を抑えないようにしていたらそれが癖になってしまった。恥ずかしいという気持ちが全く無いわけではない。けれどそれ以上に、その声を聞いた迅の目が欲の色を濃くすることのほうが自分にとっては重要なことだった。
「迅、……じん、気持ちいい」
 そう伝えると、迅が視線だけで太刀川の方を見る。性器を愛撫する口の動きは止めずこちらを見やった迅の目は欲に濡れていて、俺が欲しいって雄くさくぎらついている。視線だけで食われてしまいそうに思った。そのことに、ひどく興奮した。
 限界が近付いてきているのが分かる。迅の口の中にいる自身が固く張り詰めて、ぐるぐると溜まった熱を吐き出したいと訴えていた。先走りが零れて、しかしそれは溢れる前にすぐに迅に舐めとられていく。その舌先の刺激に、体はびくりと反応した。
 太刀川の限界が近いことを迅も察したのだろう。口の動きを激しくしてきて、部屋の中に淫猥な水音が響く。全体を強く吸われて、快楽の強さに止めようもなく体を震わせてしまう。
「ん、っ……ぁ、じん」
 も、イく、と呟いた声には、返事代わりに迅の愛撫が返る。亀頭を嬲られて、敏感な先端を舌先で押し込むように触れられれば、もうだめだった。
 熱が精路を駆け上がってくる感覚。迅の口の中で白濁が弾けて、快楽と共に体がぶるりと震えた。迅は躊躇うこともなく、口の中に出されたそれを飲み込んでいく。迅の口が太刀川のものを飲み込む口の動きにすら達したばかりで敏感なそこは快楽を拾って、太刀川は「ぁ……」と声とも吐息ともつかない音を口から吐き出した。
 快楽の余韻がゆっくりと引いていくのを、荒くなった呼吸を整えながら全身で感じていた。吐精をするのも久しぶりの感覚だった。迅とするのが久しぶりだからだ。その間、特に自慰などもしていなかった。
 迅とこういう関係になる前は、自分は性欲が薄いのだと思っていた。自慰だってどうしても生理現象で勝手に勃った時の処理をするくらいで積極的にしたいとは大して思わなかったし、セックスをしたいともそれほど思ったこともなかった。迅とするようになっても、別に一人の時はやっぱり大して自慰とかをしたいとも思わない。
 だけど、一度触れてしまえば欲しくなる。自分の中に眠っていたものを叩き起こされるような。太刀川をこんな気持ちにさせるのは間違いなく、迅ただひとりだった。
 気持ちいい。もっと欲しい。まだ足りない。体はもう、この先の快楽を知っていた。
 太刀川の精液をしっかり最後まで飲み込んだ迅は、ようやく太刀川の性器から口を離す。口の端にこぼれていた自分の唾液を手の甲で雑に拭った後、迅の手は再び太刀川の下半身に伸びる。指先で会陰の部分に触れられて、体が大袈裟に震えてしまった。わざとらしくつつ、と指でそこをなぞっていった後に、迅はその奥にあるまだ固く閉ざされた場所に触れる。覚え知った、しかし久しぶりの感覚に太刀川は短く息を吐く。
 迅がヘッドボードに置いていたローションに手を伸ばして、中身をもう片方の手の中に出す。適当に体温で馴染ませてから、迅が滑りを纏わせた指を太刀川の後孔に宛がった。
 爪先がゆっくりと太刀川の中に侵入してくると、思わず息を詰めそうになってしまう。何度重ねても、毎日みたいな頻度でやっていない限り体はどうしても最初だけは違和感を拾ってしまう。
 当然だ。元々何かを挿入することを想定されている器官では恐らく無いから、人間の本能的なものだろう。
 だけど、この指は太刀川を傷つけることはしないと知っている。だから力を抜いて、この感覚に慣れることに意識を集中させた。
(久しぶりだと、やっぱキツめだな……)
 そんな感想を抱くが、中に入ってきている迅だって同じ事を感じているだろう。指は普段より心持ち丁寧に動いて、入口をゆっくりと拡げようとしてくる。その途中で太刀川の性感を引き出す為に内壁を優しくなぞられると、すぐにまた呼吸が乱れた。そして、それを見逃すような迅ではない。太刀川の弱いところを狙ってゆるゆると撫でられると、先程吐き出したばかりの体がまたすぐに熱を持ち始める。
「ぁ、……っあ」
 指先が入口近くのしこりの部分、前立腺を掠めると、大袈裟に体が震えてしまった。
「~~、ッ……!」









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