JINTACHI JAM sample

(真夜中の散歩をしている迅悠一×だらだらとテレビをみている太刀川慶/書き下ろし/抜粋)



 テレビの中ではつけていたコント番組が終わって、トークバラエティの番組に変わっていたことに太刀川は少しの間気づけないでいた。ふと現実に返って、いつ番組が変わったのだろうと驚く。それほど自分がぼんやりとしていたのだということを自覚させられて、内心で自分に呆れてしまった。
 だって、つまらないのだから仕方がない。
 番組がつまらなかったわけではない。はずだ。割と好きな番組ではあるし、いつもであれば太刀川も楽しく笑いながら見ていたと思うのだが、今日はどうにも。原因は自分でよく分かっている。
 だらだらとつけていたって仕方がないなと思って太刀川はテーブルの上に放ってあったリモコンでテレビの電源を切る。リモコンを元の位置に置いた後、今度は私用のスマホを手に取った。通話の履歴を辿って、一番上にあった名前――今夜の太刀川の気をずっと散らす原因となっている男の名前をタップする。
 スマホを耳に当てると無機質なコール音が何度か鳴るが、なかなか出ない。コール音がようやく途切れたのは、繋がらないかな、と太刀川が一旦諦めかけた頃だった。
『……もしもし?』
 耳元で、機械越しとはいえその聞き慣れた声を聞いた時に自分の内側に沸き起こった感情を、太刀川はうまく自分でも掴みきることができなかった。
「迅? やっと出たな。今何してるんだよ」
『え、いま? うーん、夜の散歩ってとこかな』
「なんだよそれ」
 妙にかっこつけた言い方をする迅に、太刀川は少し呆れたような気持ちになる。迅の言い方が回りくどいのは今に始まったことではないが。とにもかくにも、そんなことはさておいて太刀川は今思っていることを電話越しに迅にぶつけた。
「つまり、暇ってことだろ。それならうちに来ればよかっただろ、昨日までみたいに」
 言い方は少し責めるような口調になってしまった。珍しく感情のコントロールが効きにくいことに、太刀川は自分がだいぶ拗ねているらしいことを自覚する。
 電話口で、迅が言葉に詰まったのが分かった。その理由は太刀川も察してはいる。だから太刀川は迅の返事を待った。少しの間しんと静寂の時間が流れて、しかし迅から電話を切られることはなかった。
 じっと待っていると、抑えたような声でようやく迅が口を開いた。
『……怒ってないんだ?』
「怒ってたらこんな風に電話しねーよ」
 迅の言葉に太刀川がすぐにそう返すと、電話口で迅が長く息を吐いた音が太刀川の耳に届いた。かと思えば迅は、わざとらしくふざけるみたいな口調にぱっと変わって『おれさー、散歩ってか、頭冷やしてたんだよね。昨日のことで。最近、外涼しいしね』なんて早口気味に言う。
 太刀川が何も言わずにいると、話し終えた迅との間にまた静寂が落ちる。一呼吸おいたあとに、また幾分静かになった声で迅は太刀川に聞いた。
『――ねえ。その言葉は、おれはどう受け取ればいい?』



*続きは同人誌にてお楽しみください。








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