right back at you



 こちらに覆い被さってきた迅が、拒むなら今のうちだなどと言う。その青い目の奥には間違いようのない欲が揺らめいて太刀川を射抜く。逆光になって暗い迅の顔の中で、その青だけがぎらついていた。
 瞳の温度はぞくりとするほどに高いくせに、その表情は驚くほどにいっそ静かだ。まるで、今にも暴れ出しそうな衝動を無理矢理手綱をかけて押しとどめているような、そんな印象を受けた。
「これ以上行ったら、多分おれ止めらんないから」
 そう言って唇を引き結ぶ迅をじっと見つめた後、太刀川はゆっくりと手を伸ばす。横に分けられた長い前髪に指先が触れると、迅の体がぴくりと小さく揺れた。そのまま迅の後頭部に触れて、髪を弄ぶみたいにしてその頭を撫でてやる。
「いいぞ」
 そう言ってやると、迅は目を見開いた。
「いいぞ、って」
 本当にわかってるの? とでも言いたげに迅は見つめる。お前な、この状況で何をされるか分かってないほど俺たちはもう幼くはないだろう、と言いたい。しかしなにぶん初めてのことで、受け容れる為の器官を元来持っていない体を拓こうというのだから臆病になる迅の気持ちも理解はできる。その細い身体の奥に抱える獣性を必死で飼い慣らそうとしているような迅の様子を見れば尚更だ。
「まあ本当に無理だったら力づくで止めるから大丈夫だ」
 そう言ってからからと笑うと、迅はなんとも言えないような表情で眉根を寄せた。口を開きかけて、しかし言葉を探したまま適切な言葉が見つからないといった様子だった。確かにそうかもしれないけど、とも、だけど、とも言いたげに迅は太刀川の出方を伺う。
(俺を傷つけたらどうしようなんて心配してるんだろうけど)
 しかし、寧ろ迅のそれだけの熱を、向けられれば向けられるほどこちらはたまらない気持ちになるのだということを、迅はもう少し理解した方が良いなんてことを思う。冷静さの皮を脱ぎ捨てて、剥き出しの熱をぶつけてくる迅こそ太刀川は好きでたまらないのだ。それは戦闘欲でも、恋愛でも、性欲でも迅が相手ならば同じことだった。
「……お前と付き合うってなった時からちゃんと考えてたさ」
 いつからかその瞳が高い熱を孕んで、欲を揺らめかせてこちらを見ていたこと、気が付いていないとでも思ったか。言葉や態度はいつも風のようにのらりくらりとしているくせに、ランク戦の時も、そして恋人という関係になってからも、ふとした時その瞳にはどこにそれだけ隠しているんだと思うくらいの熱を宿していた。
 そしてそれを見つける度に、ぞくりと嬉しさと興奮が沸き上がる。昔から何かに執着するような質ではなかったけれど、迅と出会ってから独占欲や優越感のようなものが少しだけ分かった気がする。なるほどこれは確かに、たまらなく甘美だ。
「自分ばっかり、なんて思うなよ」
 そう言うと迅の表情がくしゃりと泣きそうに歪んだ。こんな時くらい素直に喜べば良いのにな、難儀なヤツだと笑ってしまいそうになるけれど、それ以上にそんな迅がどうしようもなく愛しく思えた。
 迅といると、もっともっと、とらしくもなく心が騒ぐ。膨らんでいく感情はどこまでいっても終わりがないようで、確かにこれは少し困ってしまうかもしれないな、なんて先程の迅の表情を思い出すのだった。




(2020年10月29日初出)



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