夕闇と明星



 夏は太陽の出ている時間が長いといえど、もうじき夕闇が夜を連れてくる。
 毎日のように遅くまでランク戦ブースに入り浸っていたらいい加減上層部も呆れたのだろう、任務もない高校生はいい加減帰れとどやされて本部から放り出されてしまった。
 埒もない話をしながら太刀川と警戒区域の中を並んで歩く。まだ昼間の暑さを残すアスファルトに照り返されてじわりと汗が滲んだ。ランク戦の高揚が残った心の中は勝手に逸って、その出口を探しているようなもどかしさみたいな気持ちがあった。
「楽しかったなあ」
 今日何度も繰り返された言葉を、まだ足りないといったように太刀川が言う。きっと太刀川の言葉も、そのもどかしさを吐き出すためみたいなところもあるんだろうと思った。
「――なあ、迅」
 ランク戦の興奮を残した、楽しくてたまらないといったような太刀川の声が同意を求めるみたいに迅の名前を呼んだ。
 その不思議な格子の瞳が迅を映して、きらきらと楽しそうに揺れる。赤く染まった空が太刀川を照らして、ざあ、と吹き抜けた風に太刀川の髪の毛が揺れる。
 それがひどくうつくしいもののように思えて。
 心の中にぽつりと生まれてしまったその感情はこの状況ではとても突飛なように思えて、でもきっとずっと前から知っていた。それなのにずっと知らないふりで目を逸らし続けていたものだった。
 それを知るのを恐れていた。なのに箍が外れるのはこんなにも簡単だ。
(――どうすれば、あんたの一番になれるんだ)
 言葉にすれば、その言葉がじわりと染み渡って迅の心の中を食い荒らしていく。
 ライバルだけじゃ足りない。
 友人だけでも満たされない。
 ライバルも、友人も、でもそれだけじゃなくて――恋愛も、なにもかも、あんたの持ち得る全部のなかでの一番になりたい。
 そんなばかみたいに強欲な考えが頭を過って、ひたりと喉の乾きを覚えた。飢えたけもののような乾きだった。自分の中にこんなに強い衝動があったなんて、この瞬間までついぞ知らなくて、知りたくなかったもので、でも知ってしまったからにはもう戻れないことも知っていて。
 ひとつ瞬きをする。何も言えずにいる迅を太刀川は不思議そうに眺めていて、しかし迅を急かすでもなく待っているそのまなざしが憎らしいくらいに苦しくて愛しかった。



(2021年4月19日初出)

診断メーカー様よりお題をお借りしました。
お題:千路の迅太刀のBL本のタイトルは「イミテーションの恋人」で、
帯のフレーズは【 どうすればあんたの一番になれるんだ? 】です。





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