すべらかに愛



 寝間着代わりにしていたTシャツを脱ぐと、迅の上半身が露わになる。いまさら目新しいものでもないはずなのに、窓から差し込む清々しく晴れた朝の日差しに照らされて、細い割に必要な筋肉はちゃんとついているその体をきれいだよなあと思ってまじまじと眺めてしまった。すらりと伸びた手足と整った顔立ちに、そういえばこいつ結構かっこいい方なんだよななんて本人に言えば「今更?」なんて顔をしかめられてしまいそうなことを思う。
 この体が、この腕が、どんな風に自分を組み敷いてくるか知っている。どんな顔をして、どんな温度でこちらに欲を向けてくるか知っている。朝の爽やかな光に照らされたこの男の体を見ながらそんな事を思って、心の隅でほんの少しだけ、ぞわりと何かが掻き立てられるような心地がした。
「太刀川さん?」
 こちらからの視線に気付いたらしい迅が、着替えの途中で手を止める。不思議そうな顔をした後に、少しだけ困ったような、でも喜んでいるような、つまり太刀川にしか向けられないような性質の悪い表情で薄く笑う。
「朝からそんな熱視線向けられると照れちゃうんだけどなあ」
 言いながら迅が手に取っていた今日着るための服をベッドの端に置いて、太刀川の前まで戻ってくる。まだベッドに座っていた太刀川の横に手をついて、ぐっと屈んで距離を詰めてくる。
「ムラムラしちゃった?」
「ああ」
 そう素直に返すと、くつくつと余裕ぶって笑う迅の青い瞳の奥で欲の色が確かに揺れるのを見つけた。素直じゃなくて、かっこつけで、自分の本音を誤魔化そうとする癖のあるこの男が、自分を見つめる瞳だけはひどく素直なことが、太刀川は密かに気に入っていた。
 するりと腰に手を回してみる。自分よりも細いだろう腰回りは触れると滑らかで心地が良い。こうして戯れに触れることを許されていることに自分のものなのだという実感が湧いて、これが優越感だとか独占欲だとかそういうものなのかもしれないと知る。自分の中にそんな感情があったなんて驚きだ。触れられた迅はくすぐったそうに目を細める。
「嬉しいけど、まだ朝だし、おれも本部とか色々行かなきゃだし、太刀川さんも大学あるでしょ?」
 迅の手が前髪をかき分けたと思ったら唇が降ってくる。柔らかい感触が触れて離れた。
「また夜にね」
 迅はまた今夜来るつもりだったんだなということをそれで知る。それは今夜の楽しみが増えたな、なんて思って口角が自然上がる。迅の腰に触れたままの手が、お互いの温度が混ざりあってとろけてあたたかい。明るい部屋の中で、よく見える迅の青い目が楽しげに笑っていた。


(2021年6月18日初出)



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