頭の先から、足の先まで



 迅の熱い手のひらで裸の肌を探られると呼吸にわずかに熱が灯った。それ自体はくすぐったい程度の感覚しかないのだけれど、この先をすっかり覚えてしまった体がじわりと期待を抱き始める。そんな太刀川の変化を見逃さなかった迅はちらりとこちらを見て、本日何度めかの唇を押し付けてきた。
 もう何度もしているのに、迅とこうして唇を触れ合わせるのは何度だって新鮮に気持ちが良いと思う。柔らかくて熱くて、この男のこんな部分を知っているのだという優越感もある。
 迅の後頭部に手を添えてこちらから口付けを深くしてやる。すぐに迅からも応戦してくるのが負けず嫌いの発露のように思えておかしかった。唇を合わせている間にも迅は体を探る手を止めなくて、胸、脇腹、そしてまだズボンを履いたままの下半身――直接的な場所じゃなくて、太腿のあたりへと焦らすみたいに手を滑らせて、そのもどかしい感触にほんのわずか体がひくりと揺れた。
 唇を離すと、照明を絞った薄い暗闇の中で迅の青い目と唾液に濡れた赤い唇だけがいやに鮮やかに見えた。至近距離のまま、迅がじっとこちらを見つめている。
「迅」
 名前を呼ぶ。迅の青に灯った熱がじわりと温度を上げる。けれどそれだけじゃまだ足りないみたいだった。強請るように迅は太刀川を見下ろしたままだ。こんな至近距離で触れ合って、見つめ合って、もう伝わっているはずなのに時々こいつはこうやって言葉を欲しがる。こちらが求めてくるのを待っている。性質たちの悪いやつだ、と思うくせに、そんなふうに甘えをみせてくることこそを愛しくなんて思ってしまう自分も大概なのだという自覚はあった。
「迅、……もっと」
 その言葉を手渡すと、迅は目だけでふっと笑った。うれしそうなその顔がこんなに素直なことを、きっと自分ではわかっていないんだろうと思うと面白い。でも、だからこそあえて言ってやるつもりはなかった。迅すらも知らない、太刀川だけが知っている迅のこと。
「うん」
 そう言った迅の顔が再び近づいてくる。体の距離も縮まって、触れるか触れないかの裸同士の肌の温度を感じていた。触れる直前にみた迅の表情こそもっともっと急いていて、どっちがだよなんてかっこつけのこいつを笑いたくなって、だけど同じ気持ちであることに心が深く充足もするのだ。



(2021年9月29日初出)

診断メーカー様よりお題をお借りしました。
お題:「あなたは千路の迅太刀で【もっとって言って】をお題にSSを書いてください。」





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