純情清純同性交遊
んう、と零した妙に甘ったるい声は果たして夢の中でのものか現のものかはぼやけた意識の中では判別がつかなかった。ひやりと冷たい温度の中で、湿った生温かいような感触が触れる。何なのか咄嗟に判断がつかなかったが、知らない感覚ではない。これもまだ夢だろうか。その感覚は下半身、それもとりわけ敏感な、己の中心の――……、え?
ぱちんと勢いよく目を見開いて心当たりの箇所に目を向けると、それに気付いたらしい恋人が、お、という顔で目線を返してくる。――迅の下半身に顔を埋め、その上熱をもった迅の自身を口で咥えながら。
「え、な……、え?」
咄嗟に言葉が出てこず、あからさまに狼狽えたような声しか出せなかったことが恥ずかしい。いや、そんなことどうでもいいくらい恥ずかしい状況になっているのだが。お互いに素っ裸なのは、昨夜やることをやった後なので了解している。問題はそう、太刀川がなぜ朝っぱらから寝ている迅の性器を咥えるなんてことになっているかということだ。
ぬるり、とした感触と共に太刀川が迅の性器から口を離す。その口の中を擦れるわずかな刺激でもひくりと太腿が揺れてしまって、耳に熱が集まる。半分くらいしか咥えられていなかったそこはまだ本格的なフェラチオはされていなかったようで唾液でのぬるつきはわずかだけだったけれど、しかし太刀川の口が離れ全貌を現したそれはもうしっかりと固くなっていて、さらに迅の動揺と羞恥を誘った。熱いそこが冷えた朝の空気に晒されて、その温度差がいやに明瞭に感じられたのもまた恥ずかしい。
「やっと起きたか」
太刀川はといえば普段と変わらないのんびりとした声色でそんなことを言うものだから、迅はこちらばかりが動揺しているように思えてその恥ずかしさにぐっと眉根を寄せる。まだ起き抜けで頭の回転が平時よりも遅い。しかし頭がフルで回転していてくれたって、この状況はすぐに飲み込めるようなものではないだろう。
「やっと起きたか、じゃないよ、なにこれ!?」
迅が言うと、太刀川はその言葉を待ってましたと言わんばかりににまりと口角を上げる。
「寝込みを襲ってた」
そうあっさりと言ってのける太刀川に、迅は何と返せば良いのか咄嗟に分からず、ぱくぱくと口を無為に動かすばかりになってしまう。数秒の沈黙の後、「……、そんなあっさりと言うことじゃない」と言えば、太刀川はあっさりと「そうかもな」と返す。しかしその目はにまにまと楽しげに細められたままだ。
「おまえ、朝勃ちしててさ」
そう事も無げに太刀川が話し出すものだから、迅はまた言葉に詰まってしまう。朝勃ちは生理現象だから仕方ないでしょ、とどうにか言い返そうとしたけれどその前に太刀川が言葉の続きを口にする。
「悪戯のつもりで触ってみたら、寝てるのにちょっと反応したから面白くなってきて。……いやー、どのあたりまで起きないかと思ってたが、さすがに口は起きるか」
あっけらかんとした口調のままそう言い終えた太刀川に、そうだこの人こういう人だった、と思い出す。いや、寝込みを襲う人だと思っていたわけじゃなくて、好奇心に対する従順さがちょっと桁違いで、面白そうだと思ったら躊躇いなくそちらを選ぶ人だ。――しかも、とりわけ迅に関することであれば、格段にその傾向が強くなった。いや、それはそれでこの人の中で自分が特別な位置にいると思えて嫌な気持ちになるはずなんてないのだけれど、しかし何をやらかそうとするか分からないのもこの人なのだ。
「起きるよそれは!」
迅が思わず声のトーンを上げて言うと、「でも手でやってた時は全然起きなかったぞ」と太刀川に返されていよいよ耳だけでなく顔全体がじわりと熱くなる。この人、寝てるおれに一体なにをしてたんだ。いや、ナニなんだけど、ていうかなんだよそれ見たかったんだけど、勿体ない――なんて考えてしまって自爆だ。この人に負けず劣らず、自分だってひどい。寝起きで頭の回転がおかしいことになっているのだと苦しい言い訳くらいさせてほしい。普段、太刀川の寝顔を見ながらキスくらいならしていいだろうかとか逡巡していた自分がバカらしく思える。
迅がそう頭をぐるぐるとさせていると、ていうか、と太刀川が再び口を開く。
「寝てるときの方がおまえ素直なんだな」
「は?」
あまりに心当たりのないことを言われて、思わずそう返してしまう。しかしそんな迅の様子を気にもせず太刀川は迅の顔を覗き込むようにして続ける。にんまりと、ひどく性質の悪い笑顔を浮かべて。
「声、かわいかったぞ」
言われて、顔の熱がまたかっと上がった。もう太刀川から見ても間違いなく顔の赤さはバレているだろう。その証拠に、太刀川は満足げににやにやと迅の顔を見て笑っている。ひどい。ひどい恋人だ。
「……っ、な、にそれ」
はっと、起きる直前のことを思い出す。何か声を零したような気がしたけれど、それはすっかり夢の中のことだと思い込んでいた。いや、正確には思い込もうとしていただけなのかもしれないが、とにかくあの油断しきった声はどうやら、現実のものだったようだ。もう、ここまでくると恥ずかしいなんてもんじゃない。
「普段我慢しようとしてるとこも嫌いじゃないけどなー」
そう上機嫌に言う太刀川が憎らしい。だというのにその楽しそうな顔すらもかわいく思えてしまった自分がまた嫌になる。普段のセックスで、気持ちよさのあまり零れそうになる声を堪えようとしていることまでバレているなんて。自分は太刀川に声を我慢しないでほしいと言っているくせして狡いとは自分でも思うが、太刀川に対してだけは何歳になっても尽きない、背伸びしたい子どもじみたちっぽけな意地のようなものだった。
「太刀川さんさ、あ」
文句の一つや二つでも言ってやろうと思ったが、太刀川の手が再び迅の性器を握りこんだせいでその言葉尻は変に揺れてしまった。ひくりと腰が揺れそうになって、そんな迅の様子を目敏く見付けた太刀川の目が笑う。なんなんだこの人、今日は普段以上に手に負えない。朝勃ちしていたらしいことに加え、先程まで太刀川の手やら口やらで愛撫されていたらしいそこはもうすっかり形を為していて、太刀川の大きな手のひらで握られるだけでぞわりと期待が足先まで駆けていく。正直な男の体が恨めしい。
「なんだ? 迅」
そんな迅を分かっていて、太刀川が煽るように言う。ああもうこんな朝っぱらから、ぐずぐずでなし崩しみたいなやつ、エリートの矜持に反するんだけどなあ――なんて心の中で呟く。しかしもう一人の自分が、ぞくぞくとこの先への期待を募らせてまるで獣みたいに疼き始めている。太刀川に言わせれば、きっとこっちが本当のおまえだろうと言われてしまいそうな部分だ。本当なんてわかんないよ、だってただ一人、太刀川さんに対してしかこんな自分は現れないんだから、と迅は思う。未来視なんて使わずとも、この先の展開はわかりきっている。お互いにそれを望むのであれば。
腕を上げて、迅の足をまたぐように陣取っている太刀川の腰をするりと撫でる。と、迅の気色がどうやら変わったようだと気付いた太刀川も迅を見つめ返す。
「……おれの寝込み襲うくらい、欲求不満だったの?」
太刀川の格子の瞳の奥の色が深くなる。迅を見つめる目がひとつ瞬きをする、その動きすらひとつも見逃すまいとでもするように迅はじっと太刀川を見つめた。積極的な太刀川は魅力的だけれど、太刀川に煽られてされるがまま翻弄されるのをよしとするほど己の矜持と欲は枯れてなどいなかった。
「昨日のじゃ足りなかった?」
そう煽るように言えば、太刀川がみだりがわしく口角を上げる。
「ああ」
窓から降り注ぐ朝の光が逆光になって、薄く影の落ちる太刀川のその表情がひどく扇情的に迅の目には映った。
「おまえいつも丁寧すぎるんだよ」
「太刀川さんが性急すぎるの。負担かかるのは太刀川さんの方なんだから」
「焦れったい」
迅の言葉を、太刀川が途中でばっさりと斬る。
「別にそれも悪くないけどな。気遣ってくれてんのは分かってるし。でも好きにしろっていつも言ってるだろ?」
だから、と迅の性器から手を離した太刀川が、今度は迅の顔の横にその手をついて見下ろしてきた。まるでこちらが押し倒されているような構図だ。
「おまえがしないなら、たまには俺が好きにさせてもらおうと思って」
太刀川はそう言って迅の唇を掠めるように奪った後、再び迅の下半身に顔を寄せて迅の性器を口に含んだ。先程、起きる直前に感じていた感覚と同じものだ。生温かくて湿った口の中に招き入れられると、それだけでぐっと中心は熱を増す。その感覚の気持ちよさはもとより、視覚的な刺激が強いのだ。あの太刀川が、迅の下半身に顔を埋め、迅の性器を咥えているというのが。迅のそれが熱を増したのに太刀川もすぐ気付いたのだろう、上目遣いでにやにやとこちらを見てくるその表情が子どもっぽくて、しかしそれが逆にいやらしさを増幅させてたまらない。
ざらりとした太刀川の舌が迅の性器をなぞって、その直截な刺激に太腿が震えそうになる。丸めた舌で先端を押すように触れられると、「は、……っ」と思わず声が零れそうになって慌てて唇を引き結んだ。しかし太刀川は得意気な表情で「声ひょえ、出ひゃしていーぞ」なんてにやにや笑ってくるものだから、迅は「咥えたまま、しゃべんないで」と声が変にならないように気を付けながら文句を返した。
フェラチオは太刀川は最初はそこまで上手くなかったように思う。いや、お互いするのもされるのも未経験だったから、他の人と比べてどうかなんてことは分からない。しかし最初は手探りだったから、こんな風にすぐ追い詰められるようなことはなく、視覚的な刺激は強くてもまだ余裕を残せていたはずなのだ。しかし体を重ねる回数が増えて、お互いの弱いところを知っていくうち、すっかりコツを掴んでしまったようだ。
(ああ、くそ)
全体を絶妙な力加減で吸われてびくりと腰が揺れる。太刀川の口の中にいる自身から先走りが零れたのがわかった。喉奥まで突き上げてやりたい、という凶暴な欲が頭をもたげる。しかしそれは太刀川が苦しいだろうと思って堪えるのに、太刀川は、好きにすればいいとでもいったようにこちらをどんどん煽って追い立ててくる。
好きにしていいって、ほんとに意味分かって言ってんのかなこの人――と思っているうちに、中心に集まる熱がさらに温度を上げさせられていく。固く大きくなったそれを咥える太刀川が少しだけ苦しそうな表情になって、それに興奮しそうになった自分から慌てて目を逸らした。
「……っ、ぁ、太刀川さん」
あともう少しでイく、というところで、太刀川が迅の性器から口を離した。ずるりとまた姿を現したそれは今度こそ太刀川の唾液や自身の先走りですっかりとろとろに濡れて、ひくりと決定的な刺激を待って揺れている。ガチガチに勃起したそれは自分で見てもなかなかエグいなと思うのに、太刀川はそれを見て満足げな表情だ。その唇がてらてらと濡れていやらしい。
「ゴム、と、一応ローション……」
言いながら太刀川が膝立ちになってぐっと体を前に倒し、ヘッドボードに置きっ放しになっていたそれらを手に取る。いつの間にやら残り少なくなっていたローションが容器の中でたぷんと揺れた。近いうちにまた買い足さないといけない。
どうやら太刀川が迅の熱を育てていたのはこのまま挿入までするつもりだったかららしい。太刀川がゴムの包装をびり、と破いたところで、迅は少し慌てて声をかける。
「ゴムくらい自分でつけるから……っていうか、このまま挿れる気? 後ろ慣らしてないでしょ、って……っ!」
迅の言葉を待たずに、太刀川がこんな時ばかり手際よく迅の自身にゴムを被せる。射精の寸前まで追い詰められて敏感になったそこは太刀川の指が触れるだけでもじりじりと熱を帯びてしまって、言葉が途中で揺れてしまった。太刀川は今度はローションの容器の蓋を開けて、とろりと中身を自分の手に出していく。
「昨日しただろ。別にもう一回解さなくてもいけると思う。さんざんしつこく解されたしな」
そうわざとらしく言った後に、一応、と呟いた太刀川が自分の後ろにローションを垂らした手をやる。くちゅり、と淫猥な水音が耳に届いて、それだけでぞわりと背中にどうしようもできないほどの興奮が走った。ここからではよく見えないが、太刀川が自分の手で自らの後ろの穴の具合を軽く解しがてら確認したのだろう。
「……、ッ」
それは強烈な刺激だった。ごくりと喉を鳴らす。太刀川がたまに自分で後ろを軽く準備してくれていることがあるのは知っているが、実際にそのさまを見たことはなかった。だから、こんな風に太刀川が自分のそこに手を這わせている姿なんて初めて見たのだ。
後ろから手を離した太刀川が迅の顔を見て、くっとおかしそうに笑う。楽しそうな顔をしているくせに、その表情はいやに淫靡だ。細められた瞳には隠そうともしない欲の色がくらりと揺れている。
「エッロい顔だな?」
もう顔が熱いのは諦めた。エロいとか言われても自分でももう自分がどんな表情をしているかなんて分からない。取り繕うような余裕もないのだ、この人の前になると、自分はいつだって。はあ、と吐いた自分の息が熱い。ひどく興奮している。
「……エロいのはどっちだよ。何も触ってないのに太刀川さんもガチガチじゃん」
迅の上に跨がった太刀川の下半身も、こちらは何も触ってもいないはずなのにすっかり勃起していた。そのことに内心動揺させられて、しかし煽るように太刀川に言い返してやる。
「おれの舐めて、興奮した?」
そう聞いてやれば、太刀川は事も無げに「ああ」と返してくるものだから本当に太刀川という男はずるい。今すぐ欲のままに突っ込んでぐちゃぐちゃにしてやりたい気持ちと、この男が次にどう出るつもりなのか、この男がしたいさまをひとつ残らず見てやりたい気持ちとがない交ぜになる。そんな気持ちのまま、こちらを見下ろしてくる太刀川を見つめた。その目の奥に、凶暴な獣をみる。それはきっと迅の中にいる獣とよく似たものだった。
太刀川が腰を落として、先端がそこに触れる。迅はぐっと息を詰めた。太刀川が言っていた通りそこはまだぬかるんでいて、迅のそれをゆっくりと呑み込んでいく。
「……っ、は……」
しかし、時間をかけて解してから挿入する普段と比べればやはりキツい。いつもよりもぎゅうぎゅうと食いつかれるような狭い内側に思わず声とも吐息ともつかない音を零してしまう。熱くて、狭くて、油断すればすぐに射精してしまいそうなのをギリギリのところで堪える。
太刀川の方を見れば、太刀川もキツそうに眉根を寄せている。
「ね、大丈夫? やっぱりちゃんと解した方が」
「大丈夫だろ、……っ、このくらい」
迅が心配になってそう聞くけれど、太刀川はそう返して腰を進めていく。太いところが内側に擦れたらしく、太刀川が「っ、あ」と喉を逸らして小さく声を上げる。その拍子にきゅうと締め付けられて迅も短く息を吐いた。しかし太刀川は動きを止めず、着実に迅のそれを自分の中に埋めていく。迅のことを焦れったいと言うだけあって、迅がいつもするよりも性急な動きだ。迅の腰に手をついた太刀川の手がじっとりと汗ばんでいる。下からだと、大きく足を開いて迅のそれを呑み込んでいく太刀川の姿も、その境目も、雄っぽい色気を隠しもしない表情も、全部はっきりとよく見えてひどく目に毒だった。
奥まで全部ぴったりと呑み込んだ後、一度呼吸を整えるように太刀川が息を吐いた。そうした後、すっかり汗だくの顔をした太刀川が迅を見下ろして「……ほら、入ったろ」といやらしい顔で笑う。それに煽られるままごくりと喉を鳴らしてしまったのが恥ずかしい。最初の頃は挿入したら流石に少し萎えていたはずの太刀川の中心は今は萎えもせず、むしろさらに固く反り返っている。
「いちいちそういう……どこでそんなの覚えたのさ」
別に太刀川のことをまさか純情だなんて思っているわけではないけれど、煽られた情動を持て余すまま太刀川にそんなことを言ってしまう。すると太刀川は当然のような顔をして返してきた。
「おまえだろ。おまえとしかしてないんだから」
言っとくけどおまえも結構大概だからな、なんて付け加えられる。おまえとしかしてないという言葉に改めて喜べばいいのか、おまえも大概だなんて指摘されて文句を言えばいいのか咄嗟に分からなくて耳が熱くなる。そんな迅の隙を突くようにして、太刀川が迅を咥えこんだままの腰を揺らし始めた。
「ん、……っ、ぁ、あ」
「……ッ、は、あ」
内側に擦りつけるみたいに太刀川が動く度、二人分の荒い呼吸が混じる。こちらも早くも呼吸が乱れているのが悔しいけれど、先程太刀川に射精寸前まで高められてしまったから仕方がない。いつもよりもキツい内側が感じ入る度に迅を搾り取ろうとでもするようにきゅうきゅうと締め付けてきて、あっという間に射精しそうになるのを気力で堪える。流石に挿入してすぐイくなんていうのは自分のプライドが許さなかった。しかしそんな迅にとっくに気付いているらしい太刀川に、「イ、ってもいーぞ? 我慢すんなよ」といやらしく目を細めて笑われてしまったのですぐに「やだよ」と唇を尖らせて返す。その言い方が子どもっぽくなってしまったのをやっぱり恥ずかしく思った。
「く……、っあ!」
腰を動かしていた太刀川が不意にびくんと背中を反らせる。弱い部分に擦れたらしい。その部分は迅もよく知っていて、迅が主導権を握っている時にもよく触れてやる場所だった。
(……好きなとこ、自分で擦りつけてんの、やらしー……)
そう気付かされるとたまらない気持ちになって、迅はぐっと強く唇を噛んだ。体の内側にぐるぐると熱が溜まっていく。物理的にもそうだし、精神的にもそうだった。好きなようにして気持ちよくなっていくこの人をもう少し堪能したいという気持ちもある反面、この人を自分の手でぐちゃぐちゃに溶かしてしまいたい気持ちもずっと渦巻いている。気持ちよくなりたいし、この人を気持ちよくもさせたい。この人に勝ちたい、手に入れたい、好きにしてやりたいという凶暴な気持ちが自分の中にずっと住み着いている。自分の内側にいる獣が檻の中で喉を鳴らしている。
(……あー、も、無理だ)
そう心の中で呟いて、ぐっと太刀川の腰を掴む。太刀川の瞳が迅を見た。普段と変わらないように見えて、ひどく厄介な熱を帯びた、迅の大好きな目だ。視線を絡ませたまま、ぐっと無遠慮に腰を突き上げた。
「――ッ! あ、あ……!」
びくりと太刀川の体が大きく震えて内側が強く収縮する。それに構わず再び一番奥に擦りつけるように下から突き上げると、また太刀川が声を上げて背中を反らした。迅の性器が届く一番奥は、太刀川が好きなところだ。そのままがつがつと突き上げてやると、太刀川の先端からじわりと先走りが零れ出す。触られてもいない性器が、迅が突き上げる度に先走りが溢れて濡れそぼるのがいやらしい。太刀川の顔を再び見やれば、熱に浮かされたような表情のまま、やっとかよ、とでも言いたげにその目が迅を見下ろしているのだから本当にこの人は性質が悪いと思った。太刀川だって迅にされるままになるつもりはないらしく、自分でもまた腰を動かしてくるのだからまったくこの人だって大概負けず嫌いだ――おれに対しては、特に。
しかしこちらが何度も突き上げていると体の力が抜けたらしく、徐々に太刀川の腰の動きも止まってくる。
「太刀川さん、すげー濡れてる、やらしー……」
すっかり自らの先走りでとろとろに濡れている太刀川の性器を見て言えば、太刀川が呆れたように「だからおまえ、っ、そーいうとこだぞ」と小さく笑う。先程の指摘のことを指しているのだと一拍遅れて気付いて、恥ずかしさに迅はぐっと眉根を寄せた。再び下から太刀川の一番奥までぐっと腰を突き上げると、「ぁ、あっ」と喉を逸らして声を上げる。その喉元に噛みついてやりたいような衝動が生まれて、まるで本物の獣みたいだと自分で苦笑した。
「太刀川さん、おれ、もー、さすがに限界……」
は、と声と共に吐き出した息がひどく熱い。ずっと気力とプライドだけで我慢してきたけれど、流石にもう無理だ。ぎゅうぎゅうに噛みつかれるような内側に、少しでも気を抜くとすぐに弾けてしまいそうだった。内側までこんな凶暴なのも太刀川さんらしいよな、なんて埒もないことを頭の隅で思う。
迅の言葉を受けた太刀川は、満足げに口角を上げる。
「いー、ぞ、つーか我慢すんなって言ったのに」
「おれのプライドの話なの」
「別にすぐイっても嫌いになんてならないぞ? かわいいやつだなって思う」
「あんたにかわいいって思われるの、やなんだって」
そう言い返すと、太刀川は「だからそういうとこが――」なんて言いかけるものだから、その言葉を塞ぐようにまた内側に擦りつけるみたいに突き上げてやった。言葉の続きは喘ぎ声に変わる。低くて、雄くさくて、それなのにひどく甘いように聞こえるのは、惚れた弱みというやつなんだろうか。もうすっかりこの人を好きになる前のことなんて分からなくなってしまったから判断なんてできやしなかった。
「ッ、は、たちかわさん……イく、ね」
言うと、「ああ」と返してくれる太刀川は律儀なのかなんなのか。しかし迅を甘やかすようなその声に誘われるまま、ぐっと一番奥を目指して太刀川の内側を抉る。太刀川が喘いで内側を一際強く締め付けてくるから、その痛いくらいの気持ちの良さにくらりとしながら迅は太刀川の内側に吐精した。「っ、あ、あ……!」と声を上げた太刀川の先端からも、後ろの刺激だけで達したせいか勢いの弱い精液が零れ落ちる。
内側に注ぎ込まれる感覚にも感じるのか、太刀川の体が小刻みに震えるのが愛おしい。抱きしめたいだなんていう、素面の時には思わないような甘ったるい気持ちにさせられて、しかしこの体勢では叶わないことを少しだけ物足りなく思った。
お互いに吐精して荒い呼吸の中、力が抜けたらしい太刀川が「あー……」と言いながらこちらに倒れ込んでくる。汗ばんだ肌同士が触れ合って、改めてお互いの温度の高さを知る。
抱きしめようかどうしようか、少しだけ迷って迅の肩口に顔を埋めた太刀川の髪に手を伸ばしてみる。頭皮も汗ばんでいるのか少ししっとりとしていた。余韻に浸ったまま太刀川の軽く癖のついた髪を指に絡ませて遊んでみると、太刀川はそれを気にもせず、しばらく迅の好きなようにさせていたのだった。