氷と火傷
頬に添えられた手がひやりと冷たかったので驚いた。そんな太刀川のわずかな表情の変化に気づいたらしい迅が不思議そうな顔をするので、「手」と太刀川は口を開く。
「冷たい。氷かよ」
「あー。だってさっきまで外にいたからしょうがない」
そう言った迅が、「嫌?」と聞くので、「嫌ではない」と返してやる。すると迅が機嫌良さそうに目尻をわずかに緩ませるので、そんな様子をかわいいやつだとちらりと思った。
暗躍帰りとやららしい迅が非番でのんびりしていた太刀川の部屋に上がりこんできて早々、ベッドの上に乗り上げてきてこれだ。話が早いのは大歓迎、むしろ勿体ぶられるほうがまどろっこしく感じてしまうので太刀川としてはそれ自体には何の文句もないのだが。
頬に添えられたままの手をとって指を絡めてやる。頬に感じていた冷たさを今度は感覚がより鋭敏な指先で感じる。
うん、やっぱり冷たいな、と思いながらその手を軽く握ってみせると、迅がくっと小さく笑った。
「てか、太刀川さんが体温高いんだよ」
「俺は部屋にいたから」
そりゃ自分の手が冷たいからよりそう感じるだろう、と思いながら言うと迅が「いや、普段から高いほうだと思う」と言う。そうなのだろうか、自分では分からない。おまえが普段から低いだけなんじゃないのかと言おうかと思ったが、埒が明かなそうなのでやめておいた。
会話が途切れた隙に迅が唇を寄せてくる。触れただけで離れた唇はやっぱり、手ほどではないが冷たく感じた。至近距離で目が合う。絡めたまま離されない手を、今度は迅から握ってきた。
触れた手のひらから、指先から、じわりと温度が融解していく。迅の手は先ほどまでよりもほんの少しだけあたたかくなっている気がした。太刀川の温度が迅にうつって、迅の指先の温度を上げていく。
「……まあ、すぐ冷たくなくなると思うよ」
これからあったかくなることをするから、と言外に宣言するように言った迅の青い目は、一見涼やかに見えるのにその奥に揺れる色が火傷しそうに熱い。冷たい指とその目の温度の高さのギャップにくらりと興奮を煽られるまま、太刀川は「そうだな」と目を細めてにやりと笑った。