ブルースカイアンドハッピーホリデー!



 目が覚めて小さく身じろぎをしようとしたところで、腰のあたりを緩くホールドされていることに気がつく。背中に感じる柔らかな体温に、ふ、と口角が緩んだところで、すぐ後ろ、耳元から名前を呼ばれた。
「起きた? 太刀川さん」
 聞き慣れた涼やかな声は、朝で寝起きだからかどこか緩んだように甘い。顔だけ軽く振り返って迅の方を見て、太刀川も返す。
「起きた。おはよう」
「おはよ」
 朝の挨拶を交わしながらも、腰に回された腕は解かれない。むしろスウェットの上からゆっくりと腰を撫で回すようにその手が動くものだから、朝っぱらから迅にしては素直な誘いとこの先への期待で太刀川は小さく笑ってしまった。
「するか?」
「太刀川さんってほんと話が早いよね」
 そう言う迅の声は少し困ったようにみせかけて、しかしその奥にわくわくとした嬉しさを隠しきれていない。体をすり寄せてきた迅が耳の後ろに口付けをしてきて、体がさらに近付いた拍子に太刀川の尻のあたりにまだ柔らかさのある、しかし既に反応の兆しもみせるそれが押し付けられるように触れる。これは朝勃ちか、それとも。
「今日からお互い連休じゃん?」
「だな」
 シフトで動いているボーダーで働いていると、連休というのはそんなに多くない。しかもそれがお互いに被るなんてなると、ほとんどないと言っていいだろう。――今回のこの連休だって、有給消化率の悪い太刀川と迅、というか特に迅を見かねて、仕事がそんなに忙しくない時期を見つけて忍田や林藤たちが計らってくれたものだ。その厚意をありがたく受け取らせて貰って、こうして二人揃っての連休を享受している。
「……だからまあ、たまには朝からこーいう、好きにさせてもらうのもいいかなって」
 太刀川の背中に頭を押し付けるようにしながら迅が言う。その甘えのような仕草がいやにかわいく思えて、顔が見たくなって太刀川はくるりと体を返した。元々腰に回された迅の腕の拘束は緩いものだったので、本気を出せば体勢を変えるのなんて簡単だ。
 至近距離で視線が絡む。迅の表情は想像通り素直でかわいらしくて、しかし欲を灯した目が期待するように太刀川を見つめてひかる。
 こんな顔をした恋人に見つめられて、期待されて、断るなんて選択肢は1ミリも湧いてくるはずがない。
「いいぞ。折角の休みだしな」
 好きにしろよ、俺も好きにするから。そう宣言してその唇を奪ってやると、迅もスウェットの中に手を潜らせて太刀川の素肌を探り始める。朝っぱらから、朝飯も食わずにこんなことをして、でももう止まる気も起きない。それがなんだか楽しくなって、キスをしながら太刀川は上機嫌に笑うのだった。



(2022年4月16日初出)







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