ぼくらのこたえ
じわりと顔が熱くなっていくのを、それを目の前の男に見られていることを自覚して恥ずかしく思ってしまった。だって数年来の同僚で、よき友人で、最高の好敵手だと自負してきた相手で――そして、今まさに迅に、告白というやつをしてきた男に。
最初は、自分が何か意味を取り違えたのかと思った。次に、冗談なのかと思った。しかしいつもと変わらない表情の読みづらいその格子の瞳は深い色のまま、妙に真面目くさった顔で迅を見つめるばかりだ。「確認したいんだけど、……好きって、恋愛的な意味で?」と確かめると太刀川は躊躇いも恥じらいもせず「そうだぞ」と認めるものだから、他の可能性は全てあっさり潰えてしまった。
(……太刀川さんが、おれを)
考えたことがなかった、というのが正直なところだ。勿論同僚として、友人として、好敵手としてとても好ましく思っていること、自分にとって大切な存在の一人であることには間違いはない。だけど、恋愛感情として、なんてことを太刀川に対して考えたことがなかった。
(……「好き」?)
なのにそう心の中でぽつりとつぶやくと、自分の心の中の何かがすとんと落ちるような、なのに同時にそわそわと疼き出すような心地があった。
まるで名前をつけようとしてこなかった感情が、太刀川の言葉で目覚めさせられてしまったような――。
「まって、……ちょっと、時間くれない?」
思わず迅は太刀川にそう言っていた。赤くなった顔を少しでも隠そうとするように口元を押さえる。ぐるぐると、自分の心の底がかき乱されて全身が熱い。
混乱していて、すぐに答えなんて出せそうにない。だけど、結論を先送りにしようとする時点で、可能性がないわけじゃないということなのだと自分で気付かされる。そんな自分にまた動揺するとともに、太刀川さんの方が先に自分の気持ちを分かって整理して言葉にしてきたのだと思うとこんなときまで負けず嫌いの自分が妙に悔しさすら覚えてしまった。
そんな迅を見ながら、太刀川はくつくつと楽しそうに笑う。自分はこんなに動揺させられているのに太刀川は余裕ありげな表情でこちらを見て笑っていて、それがまた悔しいのに、笑った顔に初めてかわいいなんて感情を抱いてしまった時点で自分はもう絆され始めているのかもしれない。それにまた動揺させられてしまう。
「いいぞ。おまえに待たされるのは慣れてる」
その言葉に、迅はぱちくりと目を瞬かせる。
(待たされるの、って、いつのこと言って――)
そう思って、はたと気付く。
この人は一体いつからおれのことを、そういう風に思っていたのだろう。そのことに思い至って、また迅は驚かされてしまう。頭がぐらりと揺らされたような、途方もないような心地で、なんでもないような顔で迅を見つめるその男の姿を見つめ返した。