妬いてる顔




 米屋との十本勝負を終えてブースを出た途端、がしりと手首を掴まれた。視えていたから驚きはしなかった、が、想定より力が強いなとは思った。それを嫌になんて思うはずもなかったけれど。
「おっまえ、なあ~~……」
 自然な仕草を意識しながら振り返ると、そこにはわかりやすすぎるほどに拗ねたように顔をしかめた太刀川がいた。
「来るなら連絡しろっつったろ、俺に、そしたら授業なんかほっぽって来たのに」
「授業ほっぽるのはよくないと思うけどなあ太刀川さん」
「出席日数的にあと二回は休める」
 それは結構ギリギリなのでは。いや自分は大学生をしたことはないから分からないけれど、なんて迅は考える。
「おまえただでさえ全然捕まんねーってのに……あのな、ランク戦やるならまず俺を誘えよ」
 珍しく苛立ったよう様子をみせる太刀川にそんな横暴な言い方をされて、迅はつい小さく笑ってしまってからわざとらしい口調で返す。
「えぇ、おれランク戦来るときいちいち太刀川さんに連絡しなきゃいけないの?」
「それが嫌ならもっとランク戦顔出せ」
 はあ、と太刀川が短く息を吐いた後、なんの迷いもないまなざしで迅を貫くように見つめた。
「だって、おまえと一番戦りたいと思ってるのは絶対俺だろ」
 にやけてしまいそうな口元を、おさえるのに苦労した。できるだけいつものように飄々と、でも不敵に、目を細めて「熱烈だなあ」なんて笑う。くん、と太刀川に掴まれたままの手首を軽く引いて迅は口を開いた。
「いーよ、戦ろう。おれ今日はこの後予定ないんだよね。なにも」
 だから、残りの時間は全部太刀川さんのものだよ。そう言外に伝えると、拗ねていた太刀川の表情がようやくいつものように戻ってくる。
「へえ……言ったな? じゃあ今日のところは許してやるから戦ろうぜ、いくらでも」
 あーこれおれ何本付き合わされるのかな、と視界の端にめくるめくように展開される未来視を眺めながら他人事のように思う。しかし発破をかけたのは自分なので、その責任は取らざるを得ないだろう。
 それだって楽しいように思えてしまう自分がいるのだから始末に負えない。
(ごめんね、今日連絡しなかったのはわざと)
 今日ふと午後の時間がぽっかり空いたからランク戦に久々に顔を出そうかと思った時点で、本当は太刀川に連絡しようかとも真っ先に思った。少し前にA級に戻りランク戦に復帰して以来、ランク戦来るときは戦いたいから声かけろと太刀川から再三言われていたのだ。
 だけど同時にこの未来視が視えてしまったから、つい太刀川に連絡しない方を選んでしまったのだ。
 だってあんなふうに、自分以外と先に戦っていることに妬いて、当たり前みたいに自分が一番おまえと戦いたいんだなんて顔をする太刀川を視てしまっては。
 ちょっと意地悪しちゃったかなあと思いながらも、こんなところで子どもじみた独占欲を満たしている自分を自覚して、でも後悔なんてしていないのだから呆れる。
(でもさ、この後は全部太刀川さんのために空けてたんだから)
 あちこち引っ張りだこの実力派エリートの今日の残りの時間を、太刀川さんのために全部。何も約束なんてしてたわけじゃない。だけどこれはおれなりのあんたへの特別扱いだって、ちゃんとわかってる? なんて。
 ひとまず機嫌を直した太刀川がブースに入っていくその背中を見ながら声に出さずにそう問いかけて、満足した心地になった迅は、太刀川とのランク戦のため先程出たばかりのブースに再び入るのだった。



(2022年10月24日初出)






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