night games
わざと一番好きなところを外して舌でゆっくりと舐めあげてやると、迅の太股がびくりと小さく震えた。口の中の迅の性器はもうすっかり大きくなって、我慢ができないと言わんばかりに先走りをたらたらと垂らしている。こっちは持ち主より随分素直だよなあ、と思って先走りを溢れるそばから舐めとると、は、と獣じみた荒い息が頭上から降ってくる。余裕のないそのさまに、太刀川は高揚感から自分の口角が上がるのが分かった。先走りでうっすら苦い口の中なんて、この高揚感ですぐにどうだってよくなる。もう少し強く触れば迅はすぐに達するだろう、と太刀川も分かっている。だけどそれはしてやらずに、太刀川はまだじれったい速度の愛撫に留めた。
普段、焦らすのが好きなのは迅のほうだ。最初の頃こそこういった行為に対して探り探りで初々しかった迅も、慣れてくるにつれ違う楽しみ方を覚えたらしい。最近ではベッドに入れば迅は太刀川をぎりぎりまで焦らして反応を楽しむというのが専らだ。「焦らした方が後が気持ちいいでしょ?」というのが迅の言い訳で、実際そういうところも無いではないのだが、元来太刀川は焦らされるのはあまり得意ではない性質である。
迅とのセックスが不満なわけではない。むしろ好きだ。だけどこっちは早く欲しいというのに毎度そんな感じのものだから、「たまには焦らされる側の気持ちも味わってみろ」と太刀川が迅に言い放ったのが今日のこと。何をするつもりなのかと焦る迅を放っておいて下半身の衣服を寛げさせ、まだ柔らかった迅のそれを咥えて愛撫し始めて、そして今に至る。
元来の負けず嫌いのせいで意地を張っているのか、そろそろイきたくて仕方がないだろうに迅はまだ耐えてみせる。まあこちらだって迅との勝負のような気分になっているのだから、どっちもどっちだ。勝負であれば勝ちたい。焦らされる側の気持ちを少しは味わえというのが最初の動機だったのだが、こうなってくると先に迅に音を上げさせてやりたくなる。だから際どいところを舌先でなぞるように愛撫してやると、迅が「ッあ、」と小さく声を零した。口の中でどくどくと迅の性器が脈打っているのが分かる。それにぞくりとした興奮を覚えながら、再び喉奥まで咥えてやる。流石に口の中がいっぱいで苦しいけれど、そんなことよりも迅の強い興奮が咥えた性器から、息遣いから、纏う雰囲気から伝わってくることのほうが太刀川にとっては重要なことだった。飲み込み切れなかった唾液が口の端から零れて顎を伝うのが分かったけれど、それにも構わず太刀川は口全体で、あるいは舌で、迅の性器を刺激する。呑み込みきれなかった根本の部分は遊ぶように指で撫でてやると、迅の熱い息が揺れたのが分かった。口の中のものがまたわずかに膨らんで、まだ大きくなるのかと笑いそうになったが、うっかりイかせないようにまたイイところを絶妙に外しながら刺激してやる。
と、不意に迅の手が太刀川の髪に触れた。そうして「たちかわさ、ん」とひどく熱っぽい迅の声が降ってくる。だから太刀川は、性器からようやく口を離して迅を見上げた。口を離した時に太刀川の唾液が唇と迅の性器との間を細く伝ったのがいやらしくて、笑える気持ちと興奮する気持ちとが半々だ。
見上げた迅と視線が絡んで、ひどく熱い視線に射すくめられてぞくりとする。強い欲情を隠しもしない赤い顔で、荒い息遣いで太刀川を見下ろす迅の表情に――ちょっとやり返してやろうくらいに思っただけだというのに、いつも迅が焦らしたがる気持ちが少しだけ分かってしまった気がして太刀川は内心自分に少し呆れてしまう。
なるほどこんな顔が見られるなら、なあ。
迅の手がくしゃりと太刀川の髪を余裕なさげに小さく撫でる。そうしていつもより低い雄くさい声で、迅が太刀川に向けて口を開いた。
「……限界、イきたい。挿れさせてよ、太刀川さん」
その言葉を聞いて、太刀川はまた口角が上がる。ああこれは、……たまらないな、という気持ちになる。だから「いいぞ」と迅に許可を出して体を起こそうとしたところで、不意に迅の足が動いた。太刀川がその動きの意図を読むよりも早く迅は足の指先で太刀川のズボンを履いたままの股間をつ、と撫でてきたものだから、その布越しの刺激に太刀川はびくりと肩を震わせた。その感触は気持ちいいと言うには弱い、しかし確かに快感の類だ――既に勃起したそこにとっては。太刀川の反応に、迅は一転してやったりといった、意地悪そうな表情に変わる。
「……太刀川さんだって限界でしょ? 触ってないのに勃ってんじゃん」
フェラして興奮したんだ、と勝ち誇ったように言う迅に、本当こいついい性格してるよなと笑えてしまう。そしてそういうところにこそ高揚して、可愛げを感じて、好きだと思ってしまう自分も自分だ。
「真っ赤なひでー顔して、よく言う」
ベッドに座った迅の上に乗りあげて、まだズボンを履いたままのそこを迅のそれに押し付けてやる。達する寸前の迅にとってはひどくもどかしい刺激だろうに、それだけでぶるりと体を震わせる迅を見て太刀川も興奮した。近づいたことでふっと香った迅の汗のにおいも、太刀川をさらに興奮させる。まだ触られてもいない奥が条件反射のように疼くのを感じながら、太刀川は自分のズボンとパンツを一気に下ろすために手をかける。その動きに迅の喉仏が上下するのを太刀川は見逃さなかった。そんなさまを見ていたら、やり返してやろうと思ったことも意地を張っていたこともどうだってよくなる。早く目の前の男に触りたい、という気持ちでいっぱいになる。
だから「今日のところは引き分けってことでいいか?」と言ってやると、迅も待ちきれないといった声で「いーよ、それで」と言って太刀川の腰を掴んで引き寄せた。