痛みも永遠もそのすべてを




 もう何回達したのかなんて分からない。先端から勢いの弱い精液がとろとろと壊れた蛇口みたいに零れ続けて、それでも快楽は目減りしない。箍が外れるとはこういうことなのだろうと思う。普段じゃ考えられないほどの熱と、渇望と、どろりとした欲で頭も体もいっぱいになる。半端な理性ではとても制御しきれないそれに押し流されてしまう感覚に、こういう時ばかりは普段はほとんど意識することのない己の第二の性を思い出させられた。
 流石に、怖い、と思うこともあった。未知の場所に自分の意志とは関係なく連れていかれるような感覚に、体と心がちぐはぐになるように思うからだ。気持ちに体が追い付かない、なんて普段の自分ではまず考えられない感覚だったのだ。
 だけどそのたび、この体に触れているのが迅であることを思い出して、ふっと息が継げる。迅ならいい、と、自分でも制御しきれない体を全部預けて構わないと思えて、安心するのだ。そう思えば無駄な抵抗がなくなった身体はより素直に快楽を享受して、さらに深いところまで溺れていく。
「ぁ、あ……あッ、ああ……!」
 後ろから迅のもので中を擦られるたび、閉じられなくなった口から声が溢れて落ちる。自分の喘ぎ声と、二人分の荒い息と、結合部から聞こえる淫猥な水音がふたりきりの部屋に響いて太刀川の耳も犯していった。体も頭の中もあつくて、気持ちよくて、そのことでいっぱいになる。発情期になるといつもそうだ――といっても最近までオメガといえど、太刀川はまともに発情期らしい発情期はなかったのだ。

 昔であればいざ知らず、バース性の研究が進んだ現在ではアルファ用のものもオメガ用のものも質のいい抑制剤が多くつくられるようになり、太刀川自身自身のバース性が判明するのと同時に処方されるようになった抑制剤は体質にも合っていたらしくよく効いた。そもそもフェロモンもオメガとしては多くないほうだと言われており、薬さえ飲み忘れなければ発情期などほとんど無いようなものだった。
 だから、迅と体を重ねるようになるまでは――初めてセックスをするまでは発情期がどんなものなのか、実感として知ることはなかったのだ。
 迅はアルファである、ということは太刀川は昔から知っていた。迅の方はバース性の発現が比較的早かったらしく、ランク戦でバチバチ戦り合っていた頃からもうアルファだという検査結果は出ていたという。何の話の流れだったか、ふとしたきっかけでそれは本人から聞いた記憶がある。
 対して太刀川はバース性の発現が遅く、高校生になっても分からなかった。まあ家系もほぼみんなベータだしベータだろ、くらいに思っていたのだが、迅がS級になって没交渉になってからすぐくらいの頃にようやく定期検査で「オメガである」という結果が出たのだった。
 だから暇さえあればランク戦をしていた頃は互いのバース性を意識するようなこともなく過ごしていたし、それ以降は会うこと自体さほど多くなかったからやはり相手のバース性を意識することもなかったのだ。
 それが迅となんだかんだあって恋愛的に付き合うようになり、セックスをすることになり――ポジションはどっちだってよかったからオメガの俺が受け身のほうがいいのかと軽い気持ちで聞けば「太刀川さんがオメガって分かる前からおれは抱きたいって思ってた」なんて真剣な顔で言われたからさすがに驚いてしまったが――その時なんの拍子かもう少し先の予定だった発情期が来たのだ。薬はちゃんと飲んでいたはずなのに抑えきれなくて、これが発情期なのかと驚いている間に体が溢れんばかりに上がった熱にどんどん流されていった。
 曰く、番でなくてもパートナーができると――それも相手がアルファであれば急にオメガの特性が強く出るようになるということもあるらしいと、後日病院の定期検査で聞かされた。
 予定外にああなったのは最初だけのことで、あとはこれまで通りだいたい平穏な日々だ。発情は関係なくセックスもできるようになった。ただ発情期に迅のそばにいると、こうやって箍が外れるようになるということだけ。
 一応処方された強めの抑制剤を飲めば、多少の体の怠さはあるがある程度抑えられないこともない。だけどよっぽどじゃない限りそれをしようとは思わなかった。抑制しすぎるのもよくないと言われているからなんて優等生みたいな理由じゃない。俺は、バース性なんて関係なく確かに俺の意志で、迅が欲しかったからだ。

 強い快楽に目の前が眩む。四つん這いだった上半身はとっくに力が抜けて崩れて、尻を迅に突き出すような格好になってしまっている。それに羞恥を感じる余裕や理性などとっくに消え去っていた。手で強く掴んでいるせいで白いシーツはぐしゃぐしゃで、しかしそうやって何かに縋らなければこの快楽に耐えられるとは思えなかった。
「あ、あ――ッふ、ああ、あ……っ!」
 弱いところを突かれてびくびくと体が大きく跳ねる。また達したようになって、掠れた声と共に後ろからどろりと愛液が零れるのが自分でも分かった。発情期の時だけのオメガの身体的変化だ。普段は出ることのない愛液がまるで女性器のように、相手を受け入れやすいように後ろの穴から分泌される。
 一応最初に迅はローションを使ってくれたが、もうそんなもの必要ないくらいにそこはどろどろで、迅が動くたびに愛液を溢れさせる。自分の穴から溢れた液体が太股を伝うのが分かって、ひどく熱を持った体はそのことにすら感じてみせた。
 最初は少し戸惑ったこの身体の変化も、迅を受け入れるためと思えばいいと簡単に思える自分がおかしかった。
 なんだっていい。オメガもアルファも関係ない。バース性なんて自分たちにとっては後からついてきたものでしかない。これは自分と迅の話でしかないのだ、と太刀川は思っている。
 これが恋愛感情だと太刀川が自覚するより、バース性なんか分かるより前からずっと、迅は間違いなく太刀川の特別だったからだ。
 中にいる迅が熱くて、固くて、それを意識してしまえばもっと欲しいと思って喉が渇いた。期待にシーツを握る手の力が強くなる。
「っ、迅、も、っと、欲し……ッあ、いちばん奥、俺の」
 言っている間にも腰を動かされて、強請る言葉は切れ切れになる。しかし迅には正しく伝わったようで、普段より低い声の「うん」という返事が返ったのとほとんど同時に一番奥に押し付けられて、抑えようもなく駆け上がる快楽に「ああ、ッ、~~!!」と大きな声で啼いてしまった。また達した気がするが、もう精液も愛液もほとんどずっと垂れ流しのような状態になっているからよく分からない。後ろで迅も「っ、は、ぁ」と荒い呼吸に混じって呻く声がする。きゅうきゅうと締め付ける中に動きが止まったのはほんの一瞬で、もう我慢できないといったようにまた腰を打ち付け始めた。
 オメガのように定期的なものではないが、アルファにも発情期は存在する。それはだいたいオメガの発情期に誘発されるものだという。迅のほうも普段以上に何度出しても萎えないのも、いつもはひどく優しくしようとするくせに我慢できないというようにこんな風に欲に塗れて激しくしてくるのも、迅だって発情期になっている証拠だった。
 二人して真っ赤で、汗だくで、どろどろになって、箍が外れたようにセックスをする。それはひどくばからしい時間で、でも迅とだから、受け入れて楽しいと思える。それが迅にとっても同じであればいいと思う。普段の、気持ちを確かめ合ったりコミュニケーションの延長としてのセックスも楽しいけれど、たまにはこんな意味のない動物のようなセックスだっていいだろうと思う。今ではどっちだって太刀川は好きだった。
「じ、ん、ッきもちい、……っあ、ああ」
 背中に触れた迅の息が熱くて、それだけでぞくぞくと肌が粟立つ。迅の手が伸びてきて固くなった乳首をきゅうと摘ままれると、それだけで痺れるような快楽に「ひ、ああ、ッ」と腰を逸らせて喘いだ。迅に触れられただけでそこがじんと熱を持つのが分かって、もっと触ってほしいと思う。口に出していないのに迅には伝わったのか、両手で撫でられて擦られてびくびくと体が跳ねる。また後ろが溢れるほどに濡れて、中にいる迅を強く締め付けた。
「胸、きもちい? かわいい、たちかわさん」
 言いながら乳首を摘まんだ指に力を込められると、痛いはずなのにそれすらも全部甘い蜜のような快楽に変換されて、それが足先まで痺れさせるようで「ぃあ、あ……っ」と下っ足らずな声が零れた。快楽に太股が小刻みに震えて、膝を立たせているのもやっとだった。
「もっと胸触ってほしい? それとも別のところ?」
 耳元で囁いた迅は片方の手で胸を弄るのを止めないまま、もう片方の手で腰に触れる。見た目より骨ばった熱い手で撫でられると、それだけでも発情期で余計に敏感になった身体は快楽を拾った。胸も気持ちいいし、中も気持ちいいし、熱に思考を融かされた頭は迅に問われてももううまく考えることができない。なんでもいい、迅がほしい、としか思えなくて、だから思いつくままにぽろぽろと言葉を零した。
「なんでもい、……ッぜんぶ、さわってほし、」
 ぐずぐずに蕩けた中も、つんと固くなった乳首も、自分が零した欲でひどく濡れた性器も。頭の先から足の先まで、迅が触れた場所はぜんぶ好きで気持ちいいから、どこだっていい。全部ほしい。全部おまえのものにしてくれて構わない。だってそんなのとっくに全部渡してる。
「……~~っ!」
 後ろで迅が息を呑む気配がした。中で迅がまた膨らんだのが分かって、それだけで背筋がぞくりと期待にわななく。もっとそれで中を抉ってほしい、早く中におまえの欲をまた注いでほしいと思って頭の中がまた熱くなる。火傷しそうだ。いやもうとっくにしているのかもしれない。
「――わかった、ぜんぶさわるね」
 そう言った迅がしばらく放っておかれっぱなしだった性器に触れて、そっと手を添えただけなのに触れた体温にぞくぞくと腰が砕けそうな快楽を感じてしまう。そのまま扱かれて、後ろも突かれて、胸も弄られれば耐えられるはずもなかった。
「ああ、あ、あ、ッ、じ、……~~ッ!!」
 白濁混じりのカウパーがどろりと零れて、愛液が太股を伝って膝を濡らす。全部ぐちゃぐちゃで、何も考えられなくなって、ただただ蜜に浸るみたいなひどく甘い快楽に溺れた。背中に触れた迅の唇も熱い。時々獣みたいな息と小さな呻き声が聞こえて、迅も強く興奮していることが分かって嬉しくなった。
 は、と迅が零した息が首筋に触れた瞬間、反射のように体がひどく震えた。その場所は、――番の証、迅の噛み跡がある場所だ。

 付き合い始めた最初の頃、迅はいくら言っても太刀川のことを噛みたがらなかった。こちらがいいと言っているのにあまりに意固地なので理由をしつこく聞いたら、ようやく白状した理由は「おれのせいで太刀川さんを縛りたくない」なんていうものだった。
 番の契約とは、オメガにとって不利なものである。番になればオメガは番以外の相手にフェロモンを巻き散らすことも番以外のアルファにむやみに発情することもなくなり、発情期の周期管理もしやすくなるというメリットもあるが、その代わり一度番えば一生解除することのできない契約である。もし番のアルファと別れれば、その後の生涯、発情期になる度満たされない熱を一人で抱え苦しみ続けることになる。
 勿論様々な薬や化学の発展によりそのデメリットは昔に比べれば大きく改善はしている。それでも根本的な部分が全て変わったわけではない。
 互いの心が離れることを危惧しているというよりも、いつ死ぬか分からない仕事だからという部分が迅にとっては大きいことのようだった。ボーダーとて可能な限りの隊員の安全策はとっているものの、とりわけ自分や迅のように有事の際は最前線に出る可能性のある人間は、そのリスクはいつだってうっすら頭の中にあるし覚悟もしているだろう。
 だけど迅は分かっていないと思う。
 そんなリスクは承知していて、だけど仮に迅がいなくなったとして自分が迅以外を将来選ぶとは欠片も思えなかった。迅以外を選ぶつもりはないし、迅を選んだ責任は自分で取るつもりでいる。勝手に責任を一人で背負おうとするのは迅の悪い癖だ。
 こっちはおまえが遺した痛みなら構わないと、それすらも愛してやる覚悟でいるのだ。
 そのことを懇々と何度も伝えて、晴れて番になったのはつい最近のことだった。噛む直前に小さな声で「本当は太刀川さんがおれ以外に発情したらとか、誰かが太刀川さんのフェロモンに当てられたらと思ったら嫉妬でおかしくなりそうだった」と白状されて優越感半分呆れ半分の気持ちになってしまったが、とにかくこっちとしては迅以外への発情のリスクを気にすることもなくなってそれなりに快適な日々である。
 番になって以来、迅はセックスの時によく噛み跡に触れてくる。セックスが盛り上がってきたころ、我慢できないといったふうに唇で、舌で、そしてその跡に重ねるように歯で。迅がそんな仕草をする度に、太刀川は笑い飛ばしてやりたくなってしまう。
 番になりたがらなかったのは他でもない迅の優しさゆえであることは知っていた。それも含めて迅のことを好きだと思っている。だけど迅にそんな仕草をされれば改めて呆れてしまうのだ。
 本当は誰より、俺を自分のものにしたかったくせに。

 噛み跡の近くに唇が触れる。それだけでたまらなく甘い性感が体の中を駆けた。その場所を確かめるみたいに何度も触れられて、柔らかい熱が太刀川の体を溶かしていく。キスをされているだけなのに信じられないくらいに気持ちが良くて腰が震えた。首筋なんてそれまで触れられてもなんともなかった箇所なのに、これもオメガの身体的な変化らしい。迅に噛まれてから、迅に触れられた時だけ反応する性感帯になっていた。
「あ、あ……ッ、ひ、あ」
 際どいところを撫でられ続けているような感覚。もどかしくて、苦しい。もっと核心的な刺激が欲しくて、でもそれをされたらだめになると頭で分かっている。それでも欲しかった。
 迅に全部に触れてほしくて、こっちだって迅の全部をぶつけられたかった。
「たちかわさ、……可愛い、すき、だいすき」
 こちらに甘えるような砂糖菓子みたいな声に、知ってると言って笑ってやりたいのに快楽に融かされた体ではうまくいかない。奥に再び押し付けられるのと同時に首筋の跡に重なるように噛みつかれて、その甘くて強すぎる刺激に何も考えられなくなる。
「ああ、ぃ、あ、あ――~~……ッ!!」
 深く達して、体中がふわふわとして、目の前がハレーションを起こす。気持ちの良さと強い多幸感に包まれながら奥で迅が達したことまでは覚えていて、その熱さに体を震わせながら、気付いたら意識を手放していた。





 どのくらい眠っていたのだろう。びくりと体が震えて目が覚めた。
 何だ、と思う暇もなく口から「っあ、ああッ……!」と勝手に声が零れて、体が抑えようもない快楽に震えて前と後ろが濡れる感覚がする。触れられているわけじゃないし、何かを挿れられているわけでもない。なのに体は勝手にこみ上げてくる絶頂にびくびくと震えた。
 初めてのことじゃない。だから分かった。とりわけ発情期の時なんかに激しいセックスをした後、深く快楽に浸った身体は何を勘違いするのか触られてもいないのにしばらくした後勝手に絶頂に至ることがある。極稀なことだが、前にもこういうことはあったのだ。
 こういうときに止める手段はない。おさまるのを待つしかない。そんなことを考えている間にも体はひどく疼いて、もどかしくて身じろぎをするのにそのシーツが肌に擦れる刺激にすら快楽を拾って逃げ場がない。
「ぃ、ああ、……ッ!」
 自分ではコントロール不能な強い性感に自然、視界が滲んだ。シーツを掴んで全身を犯す快楽をやり過ごそうとしていると、熱い視線に気が付いた。
 声で目が覚めたのか、迅がこちらを見ている。迅に一人で絶頂に至っているさまを見られていると思った瞬間、流石に羞恥が体を灼いて、そしてそれすら興奮材料に変わってまた、迅に全部を見られながら体を震わせて呆気なくイッてしまった。
「ぁあ――ッう、あ……っ、あ」
 触ってもいない前からはカウパーがどろりと零れて、しかしもはや精液は出なかった。出し尽くしたというのもあるのだろうが、ドライでイくと際限がないということは経験上分かっていた。
 一度達したのにまたすぐ次の波がきて、口が自然と「じん」と目の前の好きな男の名前を呼ぶ。その瞬間、その目に灯った欲情の色が深くなるのを見て取って、思わずは、と媚びるような息が零れた。後ろから零れた愛液でシーツがじっとりと濡れる。今は受け入れるための場所として拓かれたそこは、寂しそうにひくひくと震えて、ただひとつ欲しい熱を与えられるのを待っている。中が、寂しい。疼いて仕方ない。おまえのじゃなきゃ足りない。
 迅、じん、と何度もイきながら無意識に何度も呼んでいたらしい。迅が顔を赤くして、そしてひどく雄くさい表情になって、太刀川を組み敷くように再び上に乗ってきた。
「そんな声で呼ばないで、我慢きかなくなる」
 太刀川さんが辛いのわかってるのに、と困ったように言うその声は、しかし剥き出しの欲に掠れていて、その声色にすら感じてしまうほどだった。
「いい、そんなの、俺も欲しい、……ッ、あ」
 俺はそんな簡単に壊れるような脆いもんじゃない。だから、もっと好きにしていい。おまえが与えるものなら痛みだってなんだって愛してやるのだとあの日伝えただろう、と思う。
 太刀川の言葉に覚悟を決めたように己の唇を噛んだ迅は、「辛かったら止めて」と言って太刀川の太股を手でぐいと担ぎ上げた。自分の枕を腰に敷いて高さを上げて、太刀川の秘所を晒す。まだ終わり切っていない発情期のおかげでそこは快楽を感じる度にまた溢れんばかりに濡れていた。角度が変わったことでつう、と愛液が太刀川の身体を伝って、その刺激にもひどく感じて声が小さく零れてしまう。
「さっき拭ったのに、もうこんな濡れてる……」
 驚いたような迅の言葉に羞恥を感じて耳が熱くなるが、それ以上に早く触れてほしいという思いが勝った。そっちだってもうすっかり下が勃起していることは分かっているのだ。期待だけでまた達してしまいそうで、体が小さく震える。早くその熱でもう一度――と思っていると迅の指が確かめるようにぬかるんだ入口に触れて、入ってくるのかと思えば次に触れたのは思ってもみない感触だった。
「~~ッ、あ……っ!?」
 ぬるりと濡れた熱い感触。迅の舌が穴にねじ込まれて、指とも性器とも違う感触に体がびくりと大きく震えた。またこれだけで達してしまった。だというのに溢れた愛液を逐一舌で舐めとられて、その感触にもひどく感じてしまって、またどぷりとそれが迅の舌を濡らす。
「あ、っああ、~~ばかそんな、の、汚……ッ」
 ひどい快楽に何も考えられなくなりそうになりながら辛うじてそう伝えるが、身じろぎをしても迅の手が強い力で太刀川の太股を押さえつけているから叶わない。溢れる愛液を躊躇いもなく拭い取った迅はてらてらと光らせた舌を恥ずかしがる様子もなく、太刀川を見て言った。
「汚くないよ」
 そう衒いもなくはっきりと言ってのけるものだから、珍しくこっちが気圧されてしまう。「おま、」と言いかけたところで舌での愛撫が再開して、言葉は喘ぎ声に変わってしまった。
「あ――んん、ッ、ああっ、あ」
 表面をざらりとした舌に撫でられて、入口近くの浅いところに侵入されて、達したばかりで敏感になった体にはそれだけでも気持ちが良すぎておかしくなりそうだった。だけど、もどかしい。触れてほしいのはもっと奥なのに。けど気持ちいい。もっとしてほしいという思いと、早くおまえのをくれよという思いでぐちゃぐちゃになる。
「は、だめ、だ、またイ……ッ!!」
 言いながらこみ上げてくる絶頂感に抗えず、また体が跳ねる。迅の舌が引き抜かれる感触にも余韻の残る体は感じてしまって、期待するようにまた下半身をひどく濡らした。
「ごめん、また挿れていい? 明日腰立たなくなったらおれが全部責任とるから」
 欲情した顔を繕いもしない迅に見下ろされれば、挿れてほしいということしかもう今の頭では考えられなくて、達したばかりで力の入らない体でどうにか頷く。ありがと、と言った声は優しいのに、キスのついでに頬に触れた息は自分と変わらないくらいに熱かった。
「まだゴムあってよかった……」
 そう言ってベッドのヘッドボードに置いたままだったゴムの箱から迅が一袋取り出して、今やすっかり慣れた手つきで中身を取り出して自身の性器につけていく。
 そこに渇望していた熱が宛がわれて、濡れきったそこは何の抵抗もなく迅の性器を迎え入れた。入ってきたと思った次の瞬間には一気に奥まで貫かれて、強い衝撃に一瞬で目の前が白んだ。
「ッああ、あ……~~!!」
 声を上げて体を震わせ、性器の奥からこみ上げてくるものを堪えることもできなかった。先端から勢いよく零れたそれは精液とも先走りとも違って、水のような透明な液体が太刀川の腹をぱたぱたと濡らして薄い水たまりを作る。それが何かを認識する余裕もないままに肩で息をしていると、目を細めた迅が太刀川の腹を撫でる。濡れたそこを迅の指が可愛がるようになぞって、その動きにすら達したばかりの体は気持ちよがって震えることしかできない。
「……潮まで吹くの、久々じゃない? 可愛い、挿れただけでイってくれたんだ?」
 迅の手のひらがぴたりと太刀川の腹筋に添えられる。そこはちょうど迅のものが入っているあたりだな、ということをふわふわとした思考の中で不意に認識してしまうと、それだけできゅうと中を締め付けてしまった。迅が「ん、っ」と小さく喘いで、そして欲に濡れた目で太刀川を見下ろす。
「想像した?」
 迅がふっと笑って、そして再び太刀川の脚を抱え上げる。また迅のそれに貫かれるのだと思えば、それだけで体の熱がひどく上がった。そんなさまも迅に全部見られて、見透かされているのだとその視線で分かる。そのことに恥ずかしくなるよりももっと、深く充足する心地の方が強かった。
「おれにされて気持ちよくなってるのも、そうやって期待してるのも、可愛すぎて頭おかしくなりそう。……ねえ、ほんとに、大好きだよ。太刀川さん」
 普段のわざとらしいほどの軽い口調とは違うその真剣な声に、迅が本心から言っていることが分かる。普段はそんな甘ったるい台詞絶対に吐かないくせして、セックスの時だけ我慢が切れたみたいに何度も言う迅が、こっちだって可愛くてたまらないと思っているのだ。
 迅が腰を使い始めると、口からはまた声がとめどなく零れ落ちていく。もうほとんど回らない頭が不意に部屋の中が薄っすらと明るいことを認識して、夜明けが近いことに気が付いた。
 途中少し寝ていたにしても、何時間ヤっていたのか。迅の言う通りこれは流石に明日腰が立たないかもしれないと思いながらも、ああでも迅が責任とってくれるって言ってたしなあという気持ちがあっさりとそんな心配を押し流した。また勝手に背負い込みたがるのは悪い癖だが、このくらいならまあ、可愛いから許してやる。そんなことより今はもっと、まだもう少し、この熱が欲しかった。
「あ、ああっ……ぅ、あ、あっ、あ」
 一晩中ひどく喘いだせいで掠れかけた嬌声が、迅を中に感じるたび何度も口から零れる。力の抜けた腕をどうにか動かして、迅の首に絡ませる。気持ちいい。もっと欲しい。好きだ。俺だっておまえのことが、自分でも呆れるほどに――
 ふっと目を細めた迅が甘やかすように太刀川の好きなところを中から愛撫すれば、それにまた下半身がひどく熱くなる。分かられていること、与えられることに気持ちが充足して、そしてまだ貪欲に迅を求めるように繋がった場所がとぷりと濡れるのを感じていた。





(2023年10月6日初出)





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