1.


「私は、人を愛することができない」
 そう言った御剣に対して、何だよそれと反射的に茶化す言葉が出てこなかったのは、その声色がいやに真剣でどこか思い詰めた様子のものであったからだった。昔何度か訪れたことのある上級検事執務室よりもさらにずっと広い検事局長室に、一瞬の不自然な沈黙が落ちて、成歩堂は少しだけ焦りを覚える。
 眼鏡越しの御剣の目に後悔の色がじわりと滲んだのを見て、とにかく何か言おうと「御剣――」と口を開きかける。しかしその瞬間、コンコンと無機質なノックの音が割り込んだ。
「御剣検事局長。今お時間よろしいでしょうか」
 部下らしき若い男性の声に、御剣ははっとしたように顔を上げる。そして「ああ。入ってくれ」と返した御剣の表情に先程の後悔や憂いの色は消え、自分にも他人にも厳しいことで有名ないつもの検事局長のそれになっていた。
「成歩堂、すまないが」と言う御剣に成歩堂は「いや、どーぞ。ぼくも用事は済んだし帰るよ。お邪魔しました」と返事をする。多忙な検事局長殿にひらりと手を振り、すれ違ったスーツ姿の職員に軽く会釈をしながら成歩堂は部屋を後にした。

 ここ数日続いた雨は今朝がた降り止んで、薄い雲の隙間から日差しが覗いていた。秋の涼しい風に乗った、湿気を含んだ空気が成歩堂の頬を掠める。道路にいくつか残った水溜まりを避けながら、成歩堂なんでも事務所まで自転車を走らせた。
 道中、頭の中で成歩堂は、事務所に戻ったらあの仕事を片付けて、ココネちゃんに頼んでいた今度の裁判の調査の進捗を確認して……と戻ってからの仕事の算段をつける。しかしその途中でどうしても成歩堂の脳裏にちらつくのは先程の御剣の表情と言葉だった。
(……あー、もう)
 滲む後悔と共に、成歩堂は心の中で小さく悪態を吐く。ちょうど目の前の信号も赤になって、成歩堂はブレーキを握って減速をした。停止線の前で止まり、赤信号をぼんやりと見上げる。
 今日成歩堂が検事局に寄ったのはちょっとした用事があったからで、御剣のあの言葉はその流れで軽い雑談をしていた中で零されたものだった。ちょっとした用事というのは、少し前の裁判で担当したことをきっかけに招待してもらった結婚式――来人さんと雫さんの結婚式で撮った記念写真がこっちの事務所に届いたから、それを御剣にも渡しに行ったのだ。ちょうど今日は検事局の近くに用があったので、ついでに立ち寄った。
 写真を渡して、なんやかんやと当日の思い出話をしているうちに、話題は気付けば結婚というもの自体に変わっていった。この歳になると、周囲の結婚やら育児やらの話がいくらでも耳に入ってくる。とはいえ成歩堂も昔の同級生との交流は薄い方だから、大体矢張づてにそういう情報を知るのだが。
 同級生のアイツが結婚した。あっちは離婚した。あの子は今二児の母だ。そんな話は噂好きの矢張が勝手にこっちに聞かせてくる。そんな矢張は、最近アイちゃんだかマイちゃんだかとにかくまた女性に振られたらしく、この間飲んだ時はヤケ酒だとかなんとかわめいて一人で勝手に酔い潰れていた。アイツも相変わらずだと呆れ混じりで笑い飛ばした後、そういえば、と成歩堂はこの検事局長室に来るまでの間に小耳に挟んだ噂話を思い出した。それで成歩堂は深く考えずその話題を口にしたのだ。
「さっき廊下で聞いたんだけど、御剣検事局長殿にはお見合いの話が山ほど来てるんだって?」
 オマエも大変だな、とそう揶揄からかい混じりの労りを向けるつもりの言葉だった。御剣はまったく困っているのだとかなんとか言って面倒くさそうに顔をしかめる程度だと思っていたのだが、御剣の反応は思っていたようなそれではなくて、らしくもなく御剣は表情をかげらせた。
 そうしてアイツの口から出てきたのがあの言葉だ。まったく唐突で、法廷では理路整然と証拠を並べ立て弁護側を追い詰める鬼検事らしくもない。が、素の御剣は昔から意外とそういう節がある。弱音を見せるのがとにかく苦手なヤツだからこそひとりで勝手に考えて、悩んで、思い詰めて、結論だけを口にする。昔よりマシにはなった気がしていたが、その癖は今なお治りきらないらしい。
 あんな顔を、させるつもりはなかった。しかし付け焼刃の繕うためだけの言葉では御剣に届かないような気がして、咄嗟に何も言うことができなかったのだ――というのは言い訳だろうか。
 横の車が動き出したことで、成歩堂は目の前の信号が青になっていたことに気が付く。慌てて足にぐっと力を入れてペダルを漕ぎ出した。風が肌を撫で、景色が流れていく。きれいに整備された街路には黄色い銀杏いちょうの木が並んでいる。秋の匂いだ。ひらりと一枚の銀杏の葉が風に乗り、成歩堂の目の前を通り過ぎた。
(愛することができない、って)
 何を言っているんだ、と成歩堂は思う。だがあの表情を見れば、ぎゅっと自分の手で握ったせいで仕立ての良さそうな赤いスーツの腕に寄ったくしゃりとした皺を見れば、そう簡単に切り捨てる言葉を口にすることはできなかった。どうやら御剣は、何か御剣なりに悩み、思うところがあるのだろう。あんな様子を見せるくらいには。
 ――なあ、御剣。それってどういう意味だ。
 そう、あのとき咄嗟に御剣に聞けていたならば。果たして、御剣からはどんな返事が返ってきたのだろうか。

「あ、成歩堂さん!」
 成歩堂なんでも事務所のすぐ近くの交差点を渡ったところで、聞き慣れた明るい声に名前を呼ばれた。そちらに顔を向ければ、成歩堂なんでも事務所のもう一人の弁護士である希月心音が駆け足でこちらに走ってくる。揺れるオレンジ色の長い髪が、傾きかけた陽に照らされて光っていた。
「ココネちゃん。おかえり、偶然だね」
「成歩堂さんもおかえりなさい。ちょうど頼まれていた調査が終わったところです! 事務所に戻ったらちゃちゃっとまとめておきますね」
「ありがとう、助かるよ」
「まっかせてください! オドロキ先輩もクラインで頑張ってるってこの間手紙が来ましたし、わたしも頑張らないと!」
 ココネはそう言って胸を張った。いつもと変わらず溌溂とした彼女の様子に、成歩堂も先程までのモヤモヤした気持ちがふっと前を向くような心地になる。あとは二人とも事務所に戻るだけなので、そのまま一緒に事務所まで帰ることにした。
 事務所のドアを開けると、みぬきもちょうど学校から帰ってきたところらしかった。成歩堂がドアを開けると制服姿のみぬきが振り返り、「パパ、ココネさん! おかえりなさい」と笑顔をみせる。
「ただいま、みぬき」
「みぬきちゃんただいま!」
 みぬきはすぐ駆け寄ってきて、「じゃじゃーん」と自分のスマホ画面をまるで水戸黄門の紋所のようにこちらに見せつけてくる。「おわ、何?」と言いながら成歩堂は画面に表示された文字を目で追った。成歩堂がそれを読むのとほとんど同時に、みぬきが上機嫌な様子で口を開く。
「みぬきの次のマジックショーが決まりました!」
 画面に表示されていたのは企画書らしきメールのやりとりで、成歩堂みぬきマジックショー(仮)の文字とともに日程や会場などの情報が記されていた。前回の大がかりなマジックショーと負けず劣らず、今回も大きな会場だ。一緒にスマホを覗き込んでいたココネがぱっと目を輝かせる。
「わぁ、みぬきちゃんおめでとう! 楽しみ!」
「おめでとう! 今回こそはぼくも観に行くからね」
 口々に祝福されて、みぬきは嬉しそうに「えへへ。楽しみにしていてくださいね!」と笑う。前回の大きな公演の時はちょうどクライン行きが重なって、成歩堂は観に行くことができなかったのだった。あの時は結局会場で事件が起こって大変なことになってしまったのだが、みぬきもあの時のショックから復活して、今度こそ最高の公演にすべく張り切っている様子だった。
 成歩堂も自分のことのように、いや自分のこと以上に嬉しい気持ちになりながらいつものごく自然な流れで「御剣にも連絡しておくよ」とポケットから携帯電話を取り出した。それからつい先程の出来事を思い出して、さっきの今で少し気まずいような気もしたが、しかし早く連絡を入れてやった方がいいだろうと思ってまずはメール画面を立ち上げることにする。そうしてふと、成歩堂は考える。
 御剣は、ずっと前からみぬきにとても良くしてくれている。今や検事局長ともなってとんでもなく忙しいはずだというのに、みぬきのマジックショーをはじめ、時には学校行事やら何やらまで、出来る限り予定を調整して付き合ってくれている。ありがたいけど無理はしなくていいんだぞ、と以前それとなく言ってみたことはあったが、御剣は自分がしたいからしていることだと返すだけだった。ああ見えて、嘘のつけないヤツだ。それは御剣の本心なのだろう。それから、御剣が無理をして自分たち家族に付き合ってくれているのだと思うことはない。
 これがいつしか、自分たち三人の自然な在り方となっていた。だが先程の御剣の言葉が妙に引っかかって、だから今更ながらに成歩堂は疑問に思ったのだ。
 幼馴染みであり、親友であり――その言葉は確かに正しいが、それで全て腑に落ちる気もしなかった。
 自分たちの間にあるものは、恋愛ではない。家族というわけでもない。だとしたらじゃあ自分たちの関係は、この間にある感情は、客観的にどんな言葉で表せばよいのだろうか。



 2.


 恋だの愛だの、自分の人生にはそんなもの無用の長物だと、昔からそう思って疑いもしなかった。
 幼少期は父のような弁護士になりたいと勉学に励み、DL - 6号事件あの事件の後は狩魔の教えを受け検事として犯罪者を裁くことにすべてを注いだ。その後成歩堂と再会しあの事件の《真実》が暴かれたことをきっかけに己の道に迷いが生じることとなるが、もう一度検事として生きる覚悟を固めてからは、改めて検事・御剣怜侍としてこの世界で闘い続けることを選んだ。
 脇目を振っている余裕も無ければ、そんな気もさらさら起こらなかった。この道を行くことこそが自分の人生であると確信していた。
 ――だが、世間はそんな生き方をする人間を、どうにも許さないらしかった。
 諸々の業務が一段落して、御剣はひとりきりになった検事局長室で小さく息を吐く。自然と眉間に手をやって眼鏡を外し、目をぎゅっと瞑った。目の疲れ方に己の衰えを感じて御剣は辟易する。昔と比べて圧倒的に多くなったデスクワークにも慣れはしたが、ちょっと気を抜くと集中しすぎて根を詰めてしまうのは部下たちにもイトノコギリ刑事にも未だによく指摘されてしまうところだった。
 少し休憩を入れた方が良いかもしれない。そう思いながら眼鏡をかけ直した御剣は、眼鏡の汚れが気になった。今眼鏡を外したとき、少しレンズに触れてしまったかもしれない。そう思って再び眼鏡を外し、引き出しを開けて眼鏡ケースを探した。
 デスクの上の段の引き出しに仕舞っていた眼鏡ケースを手に取って、中の眼鏡拭きを取り出そうとする。と、眼鏡ケースの下に適当に仕舞っていた書類が目に入る。今あまり目にしたくないそれを見つけてしまって、御剣の眉間のヒビは深さを増した。
(何度断っても方々から話がやってくるのだから、世間というやつはよっぽどお節介であるようだ)
 そこに突っ込まれていたのは、いわゆるお見合いの資料である。それもひとつではなく複数枚。御剣は色々な意味で検事になって間もない頃から名が知れていたため、この手の話は若い頃から無いではなかったが、検事局長に就任してからは一気に増えた。こうして直接的に見合いの話を持ってこられないまでも、年齢が上がるにつれて結婚はしていないのか、じゃあいい人はいないのかと、時に好奇の目で、時に哀れみの目で、あるいは悪気の無い優しい目で――あくまであなたの幸せを祈っているからなんですよというふうに――御剣に聞いてくる。
 それに今更傷つくような繊細さは持ち合わせてはいないつもりであったが、それが何十回と繰り返されると流石に辟易し、そして世間ではなく自分が何か間違っているのかという気にさえなってくる。
 恋愛に興味が無い――というより、恋愛感情というものが実感としてわからない、というほうが正しいのだろうか。御剣がこれまで三十数年生きてきて、人に好感や敬意などの感情を抱くことは勿論あれど、恋愛感情を抱いたと思える経験は一度もなかった。
 人に恋をしない、できない。例えばドラマや映画のように身も世も無く人を愛するような、そんな経験のない自分は人として何か欠けているというのだろうか。不幸な人生であるとでも世間は言いたいのだろうか。そんな思いがおりのように心の中に溜まっていたらしく、先程成歩堂にもふとした拍子に変な言葉をぶつけてしまった。あの時の成歩堂の戸惑った表情を思い出し、御剣の胸中にまたモヤモヤとした後悔の念が滲む。
「……まったく、私らしくもない」
 ひとりきりの部屋で、御剣はそう吐き捨てる。そんなことを鬱々と気にして、まして成歩堂に八つ当たりのようにわけのわからないことを言ってしまう己にこそ、何よりも自分は辟易していた。
 と、机の上に置いていたプライベート用の携帯電話が不意に鳴って御剣はびくりと体を震わせた。短い電子音は、着信ではなくメールの受信を知らせる音である。誰だろうか、と携帯を手に取って画面を見ると、つい先程まで頭に思い浮かべていた男の名前が表示されていたので御剣はまた少し驚いてしまった。変な空気のまま別れてしまったので何の連絡なのか少しだけ身構えてしまうが、メールを開いてすぐその不安は消え去る。なんということはない、みぬきのマジックショーが決まったからおまえも観に来ないか、というだけのいつもと変わらぬシンプルな誘いの文言だった。御剣は自然にほっと表情を和らげていた。先程のことについて何も触れずにいてくれるのが、今のくしゃりとした気持ちを持て余した御剣にはありがたかった。
 文面には日時と会場の記載もあったが、このあたりでもなかなか大きい会場だ。少し前にあった公演――不運にも彼女が事件に巻き込まれ被告人となってしまったあの事件が起きた公演だ――に負けず劣らずの大規模な公演になるらしい。あの時は成歩堂はクラインに行っていて行けなかったというし、御剣もどうしても外せない仕事があり足を運べなかったから、次の機会にはぜひ行きたいものだと思っていたのだ。
 御剣はすぐに机の上に置いていた手帳を手に取ってぱらぱらと捲り、その日付のページを開く。予定が入っていないことはないが、おそらく調整できるだろう。御剣は再び携帯を手に取ってメールの返信画面を開き『スケジュールを調整してみよう』と打ち込んで、それから『みぬきくんにもおめでとうと伝えてくれ』と最後に付け足してメールを送信した。
 御剣は携帯を机の上に戻し、椅子に軽く凭れた。局長室の椅子は無駄にふかふかで座り心地が良い。先程中途半端に取り出したままだった眼鏡拭きを改めて手に取って眼鏡を軽く拭けば、眼鏡越しの視界もすっかり良好なものに戻った。
 自分たちの関係を、なんと呼べば良いのか。御剣の頭にふとそんなことが浮かんだ。これまでも何度か思ったことはないではなかったが、いつも結論を出さずにいたことだった。
 成歩堂が弁護士バッジを剥奪され、そして同時に養女まで迎え入れたあの時から気付けば十年近くの月日が経とうとしていた。御剣も大きな衝撃を受けたし戸惑いもしたが、そんなことを理由に成歩堂との友人関係を絶とうなどとは毛ほども思わなかったし、もし成歩堂「親子」が困っていることがあれば自分に出来る限りの支援をしたいと思った。成歩堂が「娘」を大切に思っているのなら、自分も大切にしたいと自然に思ったのだ。時間を見つけて成歩堂家に通い、成歩堂だけでなく娘のみぬきとも交流をしていくうち、いつのまにか三人で居ることが自然になって、成歩堂のために始めたことだったが気付けば御剣自身も三人で居る時間に深い居心地の良さを感じるようになっていた。
 成歩堂と恋愛関係にあるのかと、そう聞かれたことも少ないながらある。成歩堂や成歩堂一家との距離の近さを見てそう思われたのだろう。それならば応援するよ、という意図のあたたかい声かけだったのだが、そういうわけではないといつも否定した。
 成歩堂とはこれからも友人として良い距離感で在り続けたいと思っているし、みぬきくんのことも叶うならばこれからも見守っていけたらと思っている。自分の人生には、仕事と、少ないながら大切な友人たちと、その他にはそれさえあれば十分に満足なのだ、
(……恋愛でなければ、人と人とはそばにいてはいけないのだろうか)
 いっそ、恋愛感情であればよかったのかもしれないということすら頭にちらりとよぎる。しかし未だ同性婚の法制化がされていないこの国で、どれだけ願っても男女の関係性と同等の権利が手に入らない当事者たちのことを思えばあまりに自分勝手な感情であると思い、御剣はすぐにその言葉を頭から打ち消した。



「みつるぎさん、長いこと借りちゃっててすみません!」
 そう言って手渡された分厚い本を受け取りながら、御剣は「気にしなくていい」と返事をした。
 土曜日の夕方という時間ではあるが、大通りから少し外れたこのカフェはいつも程良く空いている。通された窓際のソファ席、窓の外でどんよりとした雲が空を覆っていた。そんな中でも彼女――一条美雲の元気な声は、天気につられてどんよりとしそうな空気をぱっと明るくしてくれるように感じられた。
「こちらこそ、なかなか時間を作れずすまない。このところ忙しくてな」
「いえ! 検事局長サマの忙しさとおそろし……いや、仕事っぷりのウワサはこっちにも届いてますよ」
「いま何か言ったかね」
「いや! 全然! ……あっありがとうございます、パフェとアイスティーわたしです! コーヒーはこちらの人に」
 先程注文したパフェと飲み物がタイミング良く運ばれてきて、そこで一旦会話が途切れる。目の前に座る美雲は、店内の照明を受けてきらきらと輝くいちごのパフェに同じくらい目を輝かせていた。広くはないカフェのテーブルの上で、大きめの豪華なパフェはそれなりの存在感を放っていた。
「溶けないうちに食べたまえ」
「すみません、じゃあ遠慮なく! いただきまーす」
 美雲はパフェスプーンで生クリームといちごをたっぷりと掬い口に運ぶ。一口食べて、「うーん、美味しい!」と頬を緩ませた。御剣は甘いものをそこまで好む方ではないので、スイーツの類いは注文せずブラックコーヒーのみだ。言葉通り美味しそうにパフェをぱくぱく食べる彼女の姿を見ながら、御剣もコーヒーカップを傾けた。苦みが強いこのカフェのコーヒーはそれなりに御剣の好みの味だった。
「ところで、貸した本はどうだった」
 そう御剣が問えば、美雲は途端に慌てたような表情になる。
「えっ、あー、勉強になりましたよ! ちょっと、すごく……かなり……難しかったですけど……」

(中略)

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