「そんなにおれのこと好き?」という迅悠一×酒で理性を飛ばした太刀川慶
三度目の吐精を果たして、気持ちの良さに迅は長く息を吐く。数瞬の恍惚の後に、目の前の光景を見て喉を鳴らして、そしてもうやめようと改めて決意を固めるのだった。
シーツの上に組み敷いた恋人――太刀川は潤んだ瞳で上気した顔で荒い息を吐いている。何度も吐き出した彼自身の精液や先走りのせいで、男でも見惚れる整った腹筋はどろどろに汚れていて、それはもう扇情的なんてもんじゃない。また元気になってしまいそうな自分の下半身を自覚して、いや、もう本当にやめようと慌てて思い直す。
瞳が潤んでいるのも、顔が上気しているのも、性感のせいだけではないのはわかっている。酔っ払っているのだ、この人は。だから今夜はそんなつもりはなかった。流石にでろでろの酔っ払いに手を出すのは憚られたから、こちらは飲み会終わりの隙だらけの太刀川がこちらに手を伸ばそうとしてくるのを何度もかわし、抵抗して、己の欲を無理やり押さえつけて目の前の男をさっさと寝かしつけようとした。その努力は払ったのだ、間違いなく。
それなのにそんな努力もむなしく、「ああもう、まどろっこしいな」だなんて少し苛立ったふうに言い放った太刀川はこちらをベッドに引き倒し、マウントポジションを取り、あっという間にこちらのズボンもパンツも脱がせてその上に跨がってきたのだった。酔っ払っていようが流石に体格の変わらない成人男性である。力加減もなく押さえつけられれば抵抗しきれず、結局されるがままで一回。
そして欲に濡れた顔でこちらを見下ろして腰を動かして感じてみせる恋人のさまに理性がとうとう千切れて、今度はこちらから強引にひっくり返して二回目、三回目、そして今に至る。
やってしまったと頭の隅では思うのに、目の前の光景のあまりの淫猥さが、そしてねっとりと高い温度で締め付けてくる内側の刺激のあまりの甘美さが、それをすぐに押し流してしまう。いやだけどもう、いい加減。太刀川の表情も少し眠そうになってきているのも分かるし、本当に、そろそろやめよう。
そう思って腰を引こうとしたのに、どこにまだそんな力が残っていたのか、絡まされた脚にきつくホールドされそれを阻まれる。
「……ねえ、太刀川さん」
そう呼んだ声は、困ったような響きになってしまった。いや実際、困っているのだが。もう分かってよ、と言う気持ちを込めて見つめるが、酔っぱらいにはそんなものは効かないらしい。太刀川は脚の拘束を緩めるどころかさらに強めて迅に言う。
「まだ足りない」
「うそでしょ、もう三回……いや、太刀川さんはもっとか……いつもだってそんなに、」
言いながら過去の交情を思い返す。たまには羽目を外すときもないではないし、太刀川も積極的に誘うし煽ってはくるが、普段は二回、三回もやればそろそろといった空気になることが多いのだ。
ぐ、と首に回した腕を引かれて、誘われるまま唇を寄せる。触れるだけのキスはいやに甘ったるく思えてしまって、ついさっきまでもっとすごいことをしていたというのに妙に気恥ずかしく思えてしまった。
「……そんなにおれのこと好き?」
だからそんなばかみたいなことを言ってしまったのは、キスがあんまり甘ったるかったせいかもしれない。いや、もしかしたら何度もキスをしているうちに酔っぱらった彼のアルコールに当てられてこっちまで軽く酔ってしまったか。言ってからじわりと恥ずかしさが首の後ろから込み上げてきて、いやもっと言い方あっただろうという気持ちになってくる。だから、やっぱなし、と言って無理やり離れようとした矢先、太刀川が普段よりずっと甘ったれたような声色で迅の言葉に返事をした。
「あたりまえだろ」
はあ、と、太刀川が吐き出した息の温度はもう触れなくたって分かる。きっと熱くて、たまらなくて、触れたらこちらまでまた引火してしまいそうなそんな温度をしているのだ。
「好きじゃなきゃ普段からおまえのことこんな大人しく待たないし、我慢もしないし、こんなに欲しいって思わねえよ……っ、なあ、久々でお預けとかいい加減無理、まだ足りね、……ッ」
心臓が苦しくなって、たまらなくなって、衝動的に肩口に噛み付くとそれすらも性感になるようで太刀川の体がびくりと震える。内側がきゅうと締まって、――もう、ほんと、こんなのって。
「やめてよ、無理だ、我慢きかなくなるからホントに」
太刀川の肩に額を押しつけながら、今にも暴れだしそうな酷い衝動を息を深く吐くことで飼い慣らそうとする。こちらの息の熱さももう、今、この人に知られてしまっている。
いくら貪っても足りないのなんて、おれだってずっと一緒だ。
そんなことを考えていたら、くっと上から笑い声が降ってくる。耳元にわずかに太刀川の息が触れて、それは先程想像したとおりの熱さをして、迅の熱を容赦なく誘引してくるのだ。
「お互い我慢してるなら、そんなのバカらしいだろ、……迅」
欲しい、と濡れた声で――太刀川のものとは思えないほどにひどく切ないような声で囁かれてしまったら、もう駄目だ。
顔を起こして、視線が絡む。その目に期待されて、心臓がまた暴れる。ああばかみたいにおれは、この人のことが好きだなと思う。こんなに、理性なんて効かなくなるくらいに。
腰を動かすと感じ入ったように逸らされる喉元に噛み付いて、這わせた舌の汗のしょっぱさに酷く興奮させられる。カーテンの隙間から見える窓の外はまだ暗く、夜はまだ長いのだということを思わせた。