「ねえ、触るよ」という迅悠一×どうしても相手を手に入れたい太刀川慶
迅が俺を好きらしいということには、少し前から気付いていた。
直接何かを言われたわけじゃない。だけど、時々刺さってくるあの視線だ。こちらが迅を見ていない時に限って刺さってくるあの、視線の熱と湿度。しかし目が合いそうになるとぱっと仕舞うあたりまで含めて、ああそういうことかとある時気が付いた。そしてほとんど同時に、自分がどうしても迅を手に入れたいのだということにも気付かされてしまった。
あの視線が欲しい。あの熱が自分だけのものであってほしい。あの男をどうしても、自分のものにしたい。そんなことを他者に対して思うのは初めてのことで、これがまさか恋というやつなのだろうかと思って苦笑せずにはいられなかった。自分の恋愛感情の在り方がこんなにも物騒なものだなんて知らなかった――いや、こんなことを思うのはきっと他でもない、迅に対してだからなのだろう。
だから。
酔ったふりをして太刀川がベッドに寝転がると、見上げた迅の喉仏がごくりと上下に動いたのを見た。酔ったふり、というか、多少酔っ払ってはいる。頬に熱が集まっていて、少しだけふわふわとした気分だ。だけど意識はしっかりしている。それこそ迅の瞳の青色がわずかに深くなったことに、すぐに気が付けるくらいには。
「迅」
名前を呼んで、誘いをかける。こちらには未来視なんてないけれど、今日は迅を宅飲みだと言って――迅はまだ未成年だからノンアルコールだが――家に呼びつけた時点からこのつもりでいたのだ。迅のほうは果たして視えていたのか。どちらにしろ、迅は断らずに家まで来たのだからこっちのものだと思った。
眉根を寄せる。困ったような、何かをひどく我慢するような顔をしてみせる。そうしてから向けられた視線は、いつも背中に感じていた、あの熱さを帯びたものだった。
「……ああ、もう」
迅がくしゃりとした声色で呟いたのは自分自身に対してだろうか。呟いたあと、迅がこちらに覆いかぶさるようにしてベッドに乗り上げてくる。逆光の迅の顔がすぐ近くにある。その熱と欲に濡れた視線はまっすぐ太刀川だけを見つめて、逸らされない。そのことに太刀川は深く充足する心地になる。
「ねえ、……触るよ」
どうしても手に入れたかった。どうしてもこの男を自分のものにしたかった。
だから、待ったのだ。この男が自分の意志で手を出してくる瞬間を、自分に対しての矜持が強くて口が上手いこの男が言い訳もできないような既成事実を作れる時を。
ここまで回りくどいことをしてでも欲しかったのか。そう聞かれれば、そうだと自分は答えるだろう。
臆病なんじゃない。きっと自分はひどく我儘だったのだ。
「いいぞ」
――こいよ。そう許可を出した声が低く部屋の中に響く。手を伸ばせば迅がその手をとってから唇に噛み付いてきて、そしてもう片方の手で服の隙間から脇腹に触れる。触れた唇も手のひらも目と同じくらい熱いなと思って、でもすぐにその温度が癖になって、こちらからも舌を伸ばして貪った。