「だめ」という迅悠一×「ここで寝てもいいか?」という太刀川慶
男の太ももなんて柔らかくもなんともないだろうに、見下ろした彼は予想外にとろりとした目でこちらを見ている。いや、そもそも眠いとは言っていたからこの表情には寝心地なんて関係ないだろうけれど。そう思って、迅は動揺を表情に出さないよう苦心する。
ご飯を食べたら眠いと言って寄りかかってきた恋人に、寝るならベッドで寝なよと返したのが少し前のこと。ベッドは数歩歩いた隣の部屋だというのに、面倒くさいと太刀川が唸って、そうして「じゃあ膝枕してくれよ」だなんて言うが早いか迅の膝の上に頭を乗せてきた。いつもの太刀川の気紛れだろう、こちらも少し眠かったせいで未来視が疎かになっていたこともあるだろうが、とにかく視えていなかった。だからそんな突然の行動に心臓が跳ねて、こちらの眠気なんて一気に吹っ飛んでしまった。
膝枕なんて別に憧れたこともなかった。したいともされたいとも思ったことがなかったはずなのに、今自分の膝の上で無防備な顔をしている太刀川を見下ろして、無性に独占欲が満たされてしまった。膝の上に彼の体温を感じるのも、よくない。どうにも落ち着かない気持ちにさせられて、しかし身じろぎをするとそれが彼にバレてしまうから下手に動くこともできない。
「なあ、ここで寝てもいいか?」
だというのに彼は呑気に欠伸をしたあと、そんなことを言う。
「……だめ」
そう言うと、膝の上の太刀川は不満げな表情になる。いいからベッドで寝ろと言われると思ったのだろう。そう勘違いしてくれたのならそれでもいいのだが、――いや、でも。
今視界の端を掠めた未来に心を捕らわれる。可能性は五分五分、しかもこちらの恥を晒すことになる。だけど。
「このまま膝の上で寝られてるとおれが襲いそうだから」
顔が赤くなりかけているのも、下半身が熱を持ちそうなのも、バレるのは時間の問題だろうと分かっていた。だからもうどちらにしろだ。恥ずかしさに耐えながらそう白状すると、太刀川は閉じかけていた目を開いて迅を見た。
「ああ、……なるほど?」
そう言った太刀川が少し考えるような間の後で言葉を続ける。
「まあそれならそれで、いいか」
「……眠いんじゃなかったの?」
迅が聞くと、太刀川は口の端をつり上げて笑った。
「今のでけっこう、眠気飛んだわ」
そう笑った顔がいやらしくて、可愛くて、おれのものなのだと急速に実感して。
「じゃあ、――お言葉に甘えて、襲わせてもらう」
そう言って唇を奪ってからは早かった。結局おまえもベッドまで待てなかったなあなんて裸の太刀川に笑われたのは、一通り事が終わってからだった。