「もう限界?」という迅悠一×「生意気だな」という太刀川慶




 固くなった乳首を一際強く吸われて、思わず「っ、ぃあ、あ……っ」と声を上げてしまう。ぞくぞくと堪らない性感が背筋を駆けて、体の力が抜けてしまった瞬間に肩を押されて呆気なくベッドに倒されてしまった。逆光になって影の落ちた迅の顔、薄く汗ばんだ肌、得意気にその口角が上がるのが見える。
「もう限界?」
 言いざまに迅の指が唾液で濡れた胸元をなぞり、先端をくにくにと愛でるように弄ってくる。その刺激にまた口からは止めようもなく「ぅあ、」と喘ぎ声が零れる。刺激されているのは胸のはずなのに、快楽は体の内側を伝って腰を、そしてその下を甘く疼かせた。
「じゃあ、おれの勝ち、かな」
 迅が目を細めてそう太刀川に言う。
 事の発端はつい数十分前、いざベッドに入ろうかという時のことだった。今日は上に乗って迅を好きにしてやりたい気分だった太刀川と、当然のごとく主導権をとりたい迅とで衝突したのだ。互いに譲らなかった結果「じゃあ先に相手を気持ちよくさせた方が勝ち」という賭けに至り、互いに相手の体を触ったり貪ったりして主導権を争うことになったのである。
 手で扱いてやったときには太刀川が優勢かと思われたが、迅が太刀川の肌に噛み付いてきて、そして胸を愛撫され始めたところからは段々と形勢が逆転され始めた。そして強く吸われたところで力が抜け、今に至る。
 迅の手がするりと太刀川の腰を撫でる。下腹部、足の付け根のあたりに手を這わされると、先程感じた疼きが増幅されるような心地になってまたぶるりと大きく体を震わせてしまう。すると太刀川を組み敷いた迅の喉仏が物欲しげに上下するのを、太刀川は見つめた。
「……ね、気付いてる? 太刀川さんの体、前よりずっと感じるようになったよね」
 胸も、腰も、脚もさ。そう言いながら迅が焦れったくなるほどゆっくりと太刀川の体を手でなぞっていく。内腿の際どいあたりを手のひらで撫でられて、熱い息が零れた。はあ、と空気を僅かに揺らしたその湿った熱はまるで媚びるようで、強請るようで、自分でも少し驚いてしまう。
「もう全部知ってるよ、太刀川さんの弱いとこ。――おれが開発したんだから、おれのものって思ってもいいよね?」
 そんなことを言ってのけた迅が、先程撫でたあたりの内腿に唇を寄せて口付ける。強く吸われて、痛みと快さの混じったその感覚に太刀川は「っは……」と声を上げて体を震わせた。痕をつけたのだろうな、とぼんやり思う。最近の迅はセックスの最中、興が乗ってくると見えないところに痕をつける癖があった。
「生意気だな」
 そんな迅をどうにも愛しく思って、楽しくて、でもしてやられたことには少しだけ悔しくもあって、だからそんな煽るような言葉を吐いてやる。迅はぱちりとひとつ瞬きをした後、楽しげに目を細めた。こんなやりとりだって互いとの間の遊びのひとつであると、迅も了解したことが知れる。
「……でも、嫌いじゃないでしょ?」
 言いながら迅が会陰にするりと親指を這わせる。欲しい場所に近付いてきたその甘い性感に、口から溢れる声を抑えることなどできなかった。
「っん、あ、……っ今日は、しょーがない、いいぞ。俺の負けで。譲ってやるから――覚えた俺の弱いとこ、ちゃんと全部触れよ? 迅」
 そう言ってやれば、迅が覿面に煽られたような顔をする。頬をじわりと赤くして、しかしその目はさらにひどくぎらつかせて。迅は己をいなそうとするように短く息を吐いてから、準備していたローションを手にとって自分の手の上に出した。
「それは期待に応えないとね。……煽ったからには覚悟して?」
 不敵に笑ったつもりなのかもしれないが、その瞳は嬉しそうなのを抑えきれていないのが可愛らしい。そしてこの先の期待に、心臓の鼓動が速くなった。ローションを少しの間手で温めた迅はその手を太刀川の下半身に再び持っていき、一番触れてほしかったところに違わず触れた。





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